Outsider
【Girl Side】
小さな子供が道端で転んで泣いている。
「大丈夫?」と言って、親だろうか。駆け寄ってくる。
「痛い」と言って泣く子供を見て、正直羨ましいと思った。
大人になったらそう簡単には泣けないんだよ。
道端で人目を気にせず泣くなんてできっこない。
大人が泣けるのはせいぜい、夜だ。
でも夜まで待てない時だってある。
大人だって、たまには一人で豪快に泣きたいんだ。
だから私は公園に来た。
晩夏の公園は、夕方でも暑かった。
その中でスーツ姿の私だけ異物のような気がした。
…何も、公園の中に限らないけど。
炭酸飲料を買った。水滴が涙に見えて、
それをハンカチで拭った。
私の目元を気にしてくれる人は誰もいない。
…こういうのを感傷的になってるって言うんだろうな。
【Boy Side】
小さな子供が道端で転んで泣いている。
「大丈夫?」と言って、親だろうか。駆け寄ってくる。
「痛い」と言って泣く子供を見て、正直羨ましいと思った。
俺はそんなに素直には泣けない。
そもそも泣きたいのかも良く分からない。
モヤモヤした煙みたいな物が胸の奥にあって、息がしづらい。
子供の擦り傷にみたいに単純には治らないことはわかっていた。
絆創膏貼って翌日にはケロッとしているガキが羨ましい。
俺のコレは、永遠に自分の影みたくつきまとってくるに違いない。
学校という施設は閉鎖的で嫌いだ。
なんていうのかな。俺みたいな異物を見る視線がうっとおしい。
無視というやり方で意識されるのは、はっきり言って重圧だ。
でも、この公園は開放的で好きだ。
特に夕方は人気も割と少なくて、
一人でいるにはうってつけの場所だった。
なのに今日は先客がいた。
ベンチに一人、何やら物思いに沈む女がいた。
【Girl Side】
社会には堂々と泣ける場所が無いのは、
結構な問題なんじゃないかという気がする。
メイド喫茶や漫画喫茶なんかより、よっぽど需要があるんじゃないかと
考えて、笑えてくる。
「社会のバカヤロウ!」
誰もいないと思って叫んだのが間違いだった。
公園の入口にヤンキー風の高校生が唖然として立っている。
不味いと思うと同時に、妙に冷静な自分に気づいて笑えてくる。
こういう度胸だって私にはあるのに、一度だって世間にアピールできていなかった。
変人だと思われて逃げられるかなと思ったのに、
その人は逃げなかった。(私だったら逃げてる。)
そのままスタスタとこちらに向かって歩いてきて、私を見おろした。
眼つきの鋭い子だった。
今時珍しいくらいに明るい色に染めた髪にピアス。
…私の方が逃げようかと思った。
【Boy Side】
「社会のバカヤロウ!」
あ。同類だ。何故か女に親近感が沸いた。変な話だった。
その女の顔が見たくなって近づく。見おろす。
スーツを着てるから大学生?…いや、とても見えない。
高校生だろうか。
「同感」
とりあえず感想を述べれば、女は目を見開いた。
口をパクパクさせている。
「でも本当に馬鹿なのは自分なんじゃないかとも思う」
もう一言告げてやれば、女は妙に神妙な顔になって頷いた。
「…同感」
それが彼女との出会いだった。