第二十四話 『勇者の決断』 OP
「……ということでだ、メック対エスのソフトボール大会が開催されることになった」
食堂での桔平の報告に、一瞬の沈黙を経て、一同から不満の声があがる。
「なんだ、てめえら、そのがっかりした顔は!」
「いや、ウゼえって。せっかくの日曜によ」
「てめ、礼也!」
「どうせ、あんたとゴリラえもんのどっちがおごるかとかの勝負がしてえだけなんだろ」
「おい、礼也。おまえは……」
「勝手に二人だけでやっとけよ。他人巻き込んでんじゃねえって。何が、ということで、だって」
「そうじゃねえって言ってんだろが!」仏頂面の木場をぐぐいと押しのけ、桔平が立ち上がる。「あくまでも親睦を目的とした懇親会だ。決しておまえが言ったこととか、木場と俺のどっちがうまいのかとか、その後の焼き肉屋での打ち上げが目的とかいうわけじゃねえ」
「今ので全部出ちゃったねえ~」
「いや、みっちゃん、まあそうなんだけどな。実は負けたチームがおごることになってんだけどよ」
「そうなんだあ、やっぱり」
「引くに引けなくてよ。かつては俺も国産和牛と呼ばれた男だからな」
「すごくうまいという意味ですね~」
「普通わかんねーだろって!」
パックのイチゴ牛乳を吸い込みながら、夕季があきれたような顔を向けた。
「好きにすればいい。あたしは出ないけど」
「夕季、出なよ。せっかくの親睦会なんだし」パックのフルーツ牛乳を吸い込みながら、雅がおもしろそうに笑う。「あたしは出ないけど」
「あたしもやだ」
「夕季、おまえは出ろ」桔平が夕季を睨めつける。「おまえはメック・トルーパーの所属だろうが」
「……」ズスス~。
「ズスス~、じゃねえ、出ろ!」
「嫌だったら」桔平に強制され、夕季が口をへの字に曲げる。「自分たちだけで勝手にやれば」
「たらとか、ればとか、ネガティブなことばっか言ってんじゃねえ、てめえは」
「意味違うけどねえ~」ズスススー!「おっほ! 変なとこ入った!」
光輔と礼也が顔を見合わせる。
「俺らは強制参加なのかな……」
「仕方ねえなあ」礼也の瞳が燃え上がっていた。「俺がピッチャーやってやるか」
「……」
「ということでだ……」
「やだ」
「おい、こら、夕季……」
「強引にしめようとしたのに失敗しちゃったみたいだねえ~」
「やりたい人だけでやればいい」
「てめ、せっかくしの坊も出るってのによ」
夕季が動きを止める。
桔平の瞳がキラリと光った。
「あいつ、ソフト部だったんだろ。おまえと一緒にソフトすんの楽しみにしてたのによ。あ~あ、なんて言やあいいんだ。あいつのがっかりした顔が走馬灯のように目に浮かぶぜ」
「もうすぐ死んじゃうんだねえ~」
「死んじまえって、いっそ」
「あ、えと……」
口もとを結び夕季が考えにふける。
すると邪悪な笑みを浮かべ桔平が立ち上がった。
「よし、決まった!」
ソフトボール用の大きな白球を天井目がけて放り上げる。それは太陽のような照明の光を受け、黒い影を落とした。
その小さな丸い物体は太陽の光の中、ぽとりと草むらへ落ちた。黒い葉を何枚も重ねたような形状のそれは、他のつぼみの群体に埋もれ見分けがつかない。
しかししだいに脈打ち、隆起し、内部からの光を帯び始める。
それがプログラム、デカラビアとして識別されるのは、まだしばらく後のことだった。