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第二十三話 『約束の丘』 4. トリオ結成!

 


 その日も桔平はメックの待機所へとやって来ていた。

「……だよなあ。あの巨乳には一度パフパフしてもらいてえよな」

「ええ、まったくです」うんうんと頷き、ケイゴが少しだけ自嘲気味につないだ。「光輔が泣きながら綾さんに抱きついていたんで、俺も泣き真似しながらタッチしようとしたら、『おまえは駄目だ』って言われました。ドンタッチ綾音! ギロリってもう……」

「目が完全にそれ目的だったんじゃねえのか? せめて俺くらいピュアな瞳しとけって」

「ああ、すっごいエロビジョンっすよ、そのピュアな瞳は」

「な~んや、それ!」

 ケイゴが来てからというもの、確実に桔平がそこへ足を運ぶ回数が増えていた。

「いやいや、俺もツッコミに関してはかなりのモンだと自負していたが、おまえの方が数段上だ。おまえならどんな暴投でも安心して投げられる」

「ボウットウしてたら危ないですね」

「これだ」目を剥いて、アメリカ人よろしく肩をすくめる。「片時も気が抜けねえ。こんな狭い日本だが、まだまだ底が知れねえってこったな」

「俺、アメリカ人ナンデ~スケド」

「なんでやねん!」

 どうでもいい話題がつらつらと続き、その途中でケイゴが両手のひらを開いておどけてみせる。

「それはホワットイズディ~スですね」

「何ぞや!」

 ふいをつかれた感じで一歩下がった桔平をおもしろそうに眺め、ケイゴはしたり顔でその説明にかかった。

「英語で、なんでやねん、って意味ですよ」

「すげえな」

 すると夕季らと会話を交わしていた雅が、嬉しそうに笑った。

「あたしが教えた嘘なんだけどねえ~」

 そんなことなど知るよしもなく、桔平・アンド・ケイゴの痛バカコンビは、楽しそうにお互いの肩をぺちぺちと叩き合い始めた。

「ホワットイズディ~ス」ぺち。

「ホワットイズディ~ス」ぺち。

「ホワットイズディ~ス」ぺち。

「ホワットイズディ~ス」ぺち。

「ホワッイディ~ス!」

「ホワッイディ~ス!」

「ホワッイッディ~スッ!」

「ホワッイッディ~スッ!」

 にこにこと笑みをたたえ、雅が二人に近寄って来た。

「楽しそう。何やってんの」

「お、みっちゃん」嬉しそうに桔平が振り返る。「英語でな、なんでやね~ん、って、ホワッイディ~スって言うんだぜ」

「ええ、ほんと! すごい!」

「ケイゴに教えてもらったんだけどよ」

「初耳!」

「ん?」目が点になるケイゴ。「初耳?」

「ケイちゃん天才だね」

「……。柊さん、俺は今とんでもない事実に気がついてしまったようです。何かとてつもないことを壮大にやられ続けていたような」

「ん? それはホワッイディ~スだな」

「あ~、桔平さん、優勝」

「だろ、だろ?」

「おまえねえ……」

 天使の微笑みを浮かべ、雅が二人の世界への侵入を試みた。

「そう言えば、なんでやねん、元気?」

「なんでやねん?」

 隣で不思議そうな顔を向けた光輔に、雅が笑いかける。

「ケイちゃん達が向こうで飼ってる犬の名前。綾さんがもらってきて、最初ジュリエッタってつけたのに、ケイちゃんが勝手になんでやねんに変えちゃったの。綾さん、すごく怒ってたよ」

「そういう顔だったんだよ」

「テリヤなのに?」

「しかもメス犬だしね」

 ケイゴがうんうんと頷いてみせた。

「そりゃ怒るだろ……」ぼそりと光輔。

 すぐさま、雅からのツッコミが炸裂した。

「なんでやね~ん!」

「あだ!」平手で頬を叩かれ、光輔が涙目で訴えかける。「ツッコミ、間違ってる!」

「またすぐ自分の力不足をツッコミのせいにしてからに!」

「え……」

「訴えるわよ!」

「な、なんで……」

 楽しそうに笑う桔平とケイゴ。

 夕季はすでに飛び火を恐れ、避難ずみだった。

「よし、俺も訴えますよ」

「よし、訴えろ、訴えろ」

 桔平の許可をえてケイゴが考えをめぐらせる。

 楽しそうに眺める雅とは対照的に、光輔は何が始まるのやら、といった表情で注目していた。

 ベルトをきゅきゅっと締め直し、ケイゴがすう~、と鼻から息を吸い込む。

 コホン、と咳払いをしてから、ふいにケイゴがおろおろとうろたえ始めた。

「ああ、もう、どうしたらいいんだろうなあ。ああ困った」

「……」桔平、ガン見。

「ほんとーに困ったぞ。どうしようかなー。どうしたらいいのかなー」

「……。うん」

 不動の桔平をケイゴがチラ見する。

「……。……ああ、もう、うろたえちゃうなあ……」

「……。……。……」ようやく頭上に電球がともる。「おまえ、そりゃ、……うろたえるだろ~」

「ピンポン」バチバチとウインクをするケイゴ。「よくわかりましたね。さすがです」

「まあな」

「一瞬間があいた時はどうしようかと思いましたが」

「俺もだ。すげえキラーパスだったな」

「ええ、届いてよかったです」

「実は全然わかってなかったんだけどねえ~」

「ま、アリだな」

「ええ、アリです」

「アリだよねえ~」

「あっはっはっは!」

「なんでやねん……」光輔がぼそりと呟いた。「……ウザ」


 その日のターゲットも光輔だった。

「おい、これ、どいつんだ~?」

 とってつけたふうに、棒読みの桔平が光輔の携帯ゲーム機をわざわざ差し上げる。

「ああ、俺んです」

 するとがっかりした様子で桔平は首を捻ってみせた。

「違うなあ」傍らのケイゴへと振り返る。「違うよなあ?」

 それに対し、ケイゴもにやりと受け答えた。

「違いますね」

「なあ」

「……何言ってんすか?」

 やれやれ、といった視線をケイゴに差し向ける桔平。

「よし、ケイゴ」

「はい」

 ケイゴもやれやれといった顔でそれに応えた。

 桔平の表情に緊迫感が浮き上がる。それから殺気を込めたまなざしでそれを言い放った。

「ドイツんだ?」

 ケイゴが目を閉じ、すうううっ、と深呼吸する。そして、活目した。

「オランダ!」

「よし!」

「よっしゃ!」

「……」

 言葉もない光輔のそばで二人がハイタッチをする。

 それをおもしろそうに眺めていた雅が、突然の参入を表明してきた。

「あたしもやる」

「よしいけ、みっちゃん」

 すうううっ、と深呼吸の雅。その笑顔に殺気が宿った。

「さあ、次にブチ殺されたいのはどこのドイツよ!」

「……」光輔、あ然。

 そのリアクションが雅にとっては、とりわけありえないものだったらしい。

「……。あれ? オランダは?」

「……。オランダじゃないだろ……」

「ええー! オランダだよ!」桔平に懸命に訴えかける。「オランダだよねえ?」

「オランダだな」重々しく頷いた。「なあ、ケイゴ」

「オランダですね」

 それを当然だと言わんばかりに、憤慨する雅。

「オランダだよねえ。まったく何言ってんの!」

「……」

 まったくもう、と腰に手をあて、雅が光輔を駄目な子目線で見下した。

「もっかいいくよ。今度は失敗しないでね」

「……」

 すうううっ……

 カッ!

「ちょっと! ゆうべの女、ドイツよ!」

 光輔、硬直。何とか勇気を振り絞る。

「……。……オラン、ダ……」

 それを心無い二人が簡単に叩き落した。

「いや、オランダじゃねえだろ」

「ないですね」

 びっくり、丸まなこで雅が二人に振り返る。

「え! ないの?」

「ないな」

「残念ながら」

 そのありえないリアクションに、雅が不機嫌そうに光輔を睨みつけた。

「また光ちゃんのせいで大ケガだよ、まったくもう!」

「……なんでやねん」


 その日も、と言おうか、もはやターゲットは真っ先に光輔へと絞られつつあった。

「俺達、ほのぼの海賊だーん!」

「おー!」

「お~!」

 いつの間にか三人組へと増員されたイタバカ集団へ、光輔がうんざり気味の表情を向けた。

 それに一早く反応するケイゴ。

「おう、兄者、こいつなんだかシラ~ってしてやがるぜ。いっそ簀巻きにして魚の餌にしてやろうか!」

「おう、おと者、そいつは豪気だな。しからば、こいつのドクロをモリの先っちょにブッ刺してガイコツの上でダンスでも踊ってやろうか。こいつのガイコツで人形劇だっはっは!」

「ちっともほのぼのじゃねえですな、あっはっは!」

「海賊なのにほのぼのってのが、そもそもの間違いだろ、だっはっはあ!」

「おう、兄者、それよりも世にも恐ろしい俺の地獄のマニヘストを聞いてくれぞなもし」

「おう、言ってミソ。おとじゃ」

「へい。こいつの目に無理やり青いコンタクト入れて、髪をペンキで金髪にして、鼻を紙粘土で盛って、アメリカ人にしてやりますわ、ぞなもし」

「おお、豪気だな。無理やりって表現が放送コードにひっかかることがあるから気をつけろよ」

「がってん、がってん承知! だいじょーぶ! ぞなもし!」

「おう、古いな、おとじゃ」

「はいはいは~い」

「おう、いじわるいもじゃ」

「ハナゲ兄じゃも赤点兄じゃも、ちっともですよ!」

「なに~、ことと次第によっちゃ、ぎゅっと抱きしめてちゅ~するぞ!」

「あっしの豊満な肉体におぼれる前にちょっくら聞いておくんなまし」

「おう、ちっとも女子大生に見えねえくらい色気もクソもねえが、身も心も凍えるような残酷ないじわるが言えるのなら言ってミソ」

「まかせてちょんまげ! んんんん! こいつのあそこを、ピー、ちょんぎって、ピー、釣りのエサにして、ピー、エビと間違えて食いついてきたサメを一本釣り、ピー」

「そいつはドン引きだな!」二人が声を揃える。

「……ピー、意味ないじゃん」

 光輔のもっともなツッコミに、キッと振り返るいじわるいもじゃ。

「何~! くびちょんパーにしてやるっピー!」

「……」

「それはさすがにまずい、みっちゃんてば」

「雅、最後のピーが、そういうキャラの語尾みたいになってたぞ」

「うん、ちょっと興奮しちゃって」

「鼻の穴、すんげえ広がってんな……」

「ふんごー、ふんごー、いってるぞ」

「いってないってばもう! ふんごー! ふんごー!」

「ベタだな……」

「お約束ですね……」

「ぽろりもあるわよ!」

「突然どーした! やりたいほーだいか!」

「触るとポロリするって木場さんがふんごーふんごーしながら言ってたから!」

「何! あの木場が! 本当か! けしからんな!」

「本当です」えへん。「昨日木場さんのプラモデルを触ろうとしたら、すぐ武器がポロリするから触らないでほしいって」

「ヴァン・ダムのことか……」桔平がとりあえず気を取り直す。「ささ、次は木場んとこ行くぞ」

「おー!」

「お~!」

「なあ、みっちゃん。やっぱりハナゲ兄じゃってのはどうだろな」

「ハナゲ船長の方がよかった?」

「いや、そういうことじゃなくて……」

「ねえ、やっぱりあたし、魔女っ子メイド少女天下一海賊孫娘Zの方がいいな」

「いったい何がやりたい人だ……」

 すでにどうでもよくなっていた光輔だけがその場にポツンと残された。

 言いようのない妙な敗北感につつまれながら。

「……。いったい、なんでやねん……」





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