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第二十三話 『約束の丘』 OP

 


 その日は宿舎の全員総出で、庭で花火大会をすることになっていた。

 水を入れたバケツをかたわらに置き、虫除けも兼ねた蚊取り線香で持ち寄った花火に火を点ける。

 年長者の陵太郎や綾音がホームセンターで購入してきた家族向けのリーズナブルなものだったが、量はたっぷりあり、手持ちのものや打ち上げ花火、空高く七色の炎を噴き上げるものなど、さまざまな種類の花火に子供達は瞳を輝かせていた。

 陵太郎が落下傘花火を打ち上げるや、年少者達が先を争うようにその落下地点へダッシュして行く。いち早く到達した光輔から、礼也がパラシュートを奪い取ると、セミの鳴き声に共鳴するように光輔が高周波を放ち始めた。

 蒸し暑い夏の夜にもかかわらず、楽しげに走り回り、時には炎を向け合い、それぞれが花火遊びに興じていた。

 そんな中、夕季は集団から離れ一人、線香花火の小さな灯火に目を向け続けていた。

 常夜灯の下、仏頂面の礼也を綾音がたしなめ、泣き喚く光輔を雅が優しくなだめる。

 その様子を、忍や陵太郎は面白そうに眺めていた。

 やがて、ひかるが切り分けたスイカを盆に載せて持って来ると、歓喜の叫び声をともない、みなが一斉にそれに群がっていった。

「こら、ケイゴ! 二つも取るな!」

 遠くから綾音の声が聞こえる。

 それでも夕季はその場から動こうとはしなかった。

 ただ一心にそのはかなげな輝きを見つめ、力つきて燃え落ちた炎の骸を見届けると、かすかに眉を寄せた。

 淡々と、しかし、どこか淋しげな様子で次の一本を手に取る。

 線香の火に先端を近づけた時、ふいに一つの影が並んだ。

「……」

 表情もなく夕季が顔を向ける。

 するとその夕季よりいくらか年長の少年が、にっこりと笑いかけて夕季へスイカを差し向けた。

「おまえの分」

 自分のスイカにかぶりつきながら、さらに前へ押し出す。

 戸惑いながらも夕季がそれを受け取ると、少年は嬉しそうに笑ってみせた。

「よし、夕季、どっちが長くやれるか、競争するか?」

 そう言って線香花火を手に取る。

 満面の笑顔から、夕季は目が離せないでいた。


 月明かりの下、丘の上で夕季と少年は並んで腰を下ろしていた。

 満天の星空を眺めながら、ふいに少年が指さした先へ夕季が目線を向ける。

 その小川では無数の蛍が光を放っており、星空の下、もう一つの宇宙があるようだった。

 少年のとっておきの場所だった。

「忘れるなよ。おまえのそばにはいつも俺がいるからな」

 そう言って笑った少年の横顔を、夕季は眩しそうな様子でいつまでも眺めていた。







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