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第二十二話 『ノイズ・アタッカー』 10. 押し寄せる不安

 


 海面と突き抜けたはるか上空まで巻き込み、ピュセルの悲鳴のような断末魔の叫びが空と海を震わせる。

 そこに存在した何かが消滅すると同時に、すべての空間は嘘のような静寂につつまれたのだった。


「ジャスト一分です」

 忍の声に覚醒するように、あ然となっていた司令室が活気を取り戻す。

 それはカウンターの反応が完全に消え去ったことを意味していた。

「……十分くらい経ってるかと思ったぜ」顎の下の汗を拭い取り、桔平が背もたれをギシッと軋ませた。「心臓もたねえな、毎回毎回……」

「さすがね」

 あさみの呟きにみなが顔を向ける。

「当然です」あさみを見上げ、忍がにっこり笑ってみせた。「私の兄弟達ですから」

 あさみも同じ顔で笑い返した。


 ガーディアンの中、三人が安堵の空気と余韻にひたっていた。

「おい、てめえ、大事なことならあらかじめ言っとけって」

 押さえのきいた礼也の声に、夕季が目線だけをくれる。

 その疲弊しきった表情を眺め、礼也がため息をもらした。

「急にこーしとか言われても、何も思いつかねえだろって」

「……よけいな知識は入れておかない方がいいと思って。勝手にパンクされると困るし」

「んだと、てめえ。できねえ子みてえに言いやがって」

「まあ、そのとおりなんだけど」

「おい、光輔、認めんじゃねえ、てめえ!」

「だってさ……」

「どうせ言っても理解できないだろうし」

「きい~!」

「まあまあ……」二人をなだめながら、ぽんと光輔が何事かをひらめく。「ひょっとしたらだけどさ、相手の攻撃をはね返したりとかもできたのかな?」

「はあ?」

「ヴォヴァルみたいに。そしたらどんな超音波だってへっちゃらだろ」

「それは俺も考えてたって」ギリッと光輔を睨みつける礼也。「言わなかっただけで」

「ほんとかな……」

「ほんとだって! バカかてめえは!」

「何それ……」

「それだと共鳴と同じ」

 ぶすりと告げた夕季に、二人の目が点になった。

「……。同じだろーが。んなこともわかんねえか!」

「顔真っ赤じゃん……」やれやれ。そしてまた、ぽん。「あ、んじゃさ、まったく音を通さない形態とかにもなれたんじゃない?」

「さっきのがそれじゃねえのかよ」

「いや、そうじゃなくてさ。細胞の一つ一つが音そのものを感知しない物体ってのかさ……」もやもやと両手の平をうごめかせる。「うまく言えないけど。ガーディアンならって思ってさ」

「おお、おまえどえらいもん思いつきやがったな」礼也が大げさに驚いてみせた。「何を隠そう、かねてから俺もそれはずっと思ってたって」

「ほんとに?」

「今度こそほんとだって!」

「……やっぱりさっきは違ったんだ」

 すると盛り上がる二人を尻目に、夕季があきれたような視線を投げかけてみせた。

「そんなの無理。きっともっと他に制約が出てくる」

「無理に決まってんだろうが、バカかてめえは!」

「ねえ、何言ってんの……」

「ブレイクするよ」

「あ、ああ、ああ……」

「っしゃ!」


 歓喜の渦につつまれる司令部の中で、対照的に脱力感に見舞われる桔平達。

「あ……」ふいに桔平の頭上に電球が点り、ぽかんと口を開けた。

「何?」

「いやな、たいしたことじゃねえんだが……」卑屈な笑みを浮かべ、あさみをちらと見る。「ひょっとしたら、音をまったく通さない物質とかにも変身できたのかもなって思っただけだ。メガリウムだけに」

「!」

「いや、ほんと、ちょっと思っただけだ」

「そんなことできるわけないじゃないですか」

 微笑ましいものを見つめるような忍に対し、桔平が恥ずかしそうに身をよじった。

「だから冗談だって。わかってるからよ」

「本当にわかっているんですか」

「何、おまえ、そのできない子みたいに俺を」

「いえ、そういうわけでは……」

 しかし楽しげに笑い合う二人が視線を向けた時、あさみは顔をそむけたまま極めてシリアスな口調でそれを口にしたのである。

「冗談ですませてしまっていいのかしらね」

「は?」

「……」

 困った顔を見合わせる桔平と忍。

 こめかみをぽりぽりと指でかきながら、桔平がふんとため息をもらした。

「そんなマジにとんなくたっていいじゃねえか。俺はただ……」

「その発想にたどりつけなかったことが、私達の思考の限界だと知られてしまったとしたら」桔平に顔を向け、あさみがふいに目を細めた。「大きなアドバンテージを、彼らに与えてしまったかもしれない……」

「……」


 竜王の格納庫前で疲れきった様子の三人が降り立つ。

 出迎えるその顔を確認し、光輔と礼也の表情が歓喜に変わった。

 にこにこと笑顔をたたえ、雅が二人を待ちかまえていたのだ。

 何も言わずに両手のひらを差し上げる。

 光輔と礼也も雅にならって、それぞれの片手を大きく差し出した。

 三人のハイタッチが夕陽に焼けるエプロンに木霊する。

「お疲れ」

「おう」

「ああ」

 それから雅は、まだ自由がきかず引きずるような足取りの夕季へ目線を向けた。

 夕季が疲れた笑顔を向ける。

 すると弾かれたように雅が突撃していった。

「ゆ~き~!」

 逃げ場もなく驚愕の表情で凍りつく夕季に、雅が力いっぱいのダイブハグを敢行する。

 それはさば折りに酷似したパワープレイだった。

「うっ!」

「あ、プリンきたかも!」


 メガル本館東館連絡通路を松葉杖をつきながら夕季が歩いていた。

 その横には夕季のバッグを持った南沢が並ぶ。休憩時間に私用を済ませ、事務所に戻ろうとしたところを夕季と鉢合わせになり、荷物持ちを買って出たのである。

「いいの? 休憩時間なのに」

 南沢の様子を横目でうかがい、申し訳なさそうに夕季がたずねる。

 すると南沢は嫌そうな顔一つせずに、朗らかな様子でそれに答えた。

「いいも何も、おまえの役に立てることなんてこんな時くらいしかないだろ」

「……。そんなの別に……」

 南沢が嬉しそうに笑った。

 南沢は一見優男風で、駒田や大沼ら他のメック隊員達の中ではどちらかと言うと細いイメージだったが、周囲の事務職の面々と比べればその逞しさが際立って映った。

「嫁さんからも言われてるしな。他の奴らだってそうだ。おまえに何かしてやりたくて仕方ないみたいだぞ。黒崎なんか毎日送り迎えしたいって言ってる。迷惑だろうって大沼さんが止めてるから、渋々我慢してるみたいだけどな」

「……」ぐむむ、と顎を引く。「……幸子さん、恵ちゃんを連れて何度もお見舞いに来てくれた」

「迷惑だったか?」

 ふるふるふるふると首を振る。

「お姉ちゃん、喜んでた。子供好きだから。あたしも嬉しかった。お礼言っておいて」

「そうか」満足そうに笑う。「幸子、ちょっとスネてたぞ」

「……。どうして」

「おまえらがサッティって呼んでくれないって」

「それは……」

 すれ違う女子職員達がにこにこしながら夕季に挨拶をしてきた。

 戸惑いながら夕季がそれに返すと、彼女らは菓子を手渡して楽しげに去って行った。

 彼女らだけではなかった。多くの女子職員達が夕季の顔を見つけるや、嬉しそうに手を振りながら近寄って来ていた。

 ぽかんと口を開け、南沢が夕季を眺める。

「おまえ、いつからこんな人気者になった?」

「……きっとケガをしているからだと思う」

 口さえ結んでいたものの、夕季も同じような表情だった。

「はは。しかし、あのみっちゃんがガーディアンを動かしてたなんてな」

 南沢の何気ない一言に夕季が動きを止める。それから前を見据えたまま、淡々と言葉を発した。

「みんな知ってるの?」

「いや、隊長クラスまでかな」しまった、と南沢が体裁を取り繕う。「知っとかないと作戦上支障が出るポジションまでだよ。俺は駒田から聞いたんだけど、これ、内緒な」

 周囲を確認しながら、しぃ~、と口に人さし指を当てる南沢を、夕季がちらりと見やる。

 観念したように南沢が小さく笑った。

「心臓みたいなものなんだよな」

「……。ちょっと違うかも」

「違ったか……」

「でも、みやちゃんが倒れると、ガーディアンが動かなくなるかもしれない」

「それってかなり重要ってことだよな」

「大丈夫。あたし達がみんなで気をつけるようにするから。みやちゃんが無理をしないように、コンディションにも気を配るつもり」

「あ~、そりゃいいな。おまえや忍が見張ってれば安心だ。柊さんじゃ頼りないからな。でもそればっかり気になって、肝心なところがおろそかにならないようにな」

「それは大丈夫」

「だよな、おまえなら」のん気に、ははは、と笑う。「どっちかって言うと、おまえらの方が無理しないようにな」

「?」

「ほら、みっちゃんのこと気にしすぎて、ガーディアンになるの控えちゃったりな。みっちゃんが嫌がってるのに、無理やりやらせるとか、おまえらじゃツラいだろ」

「!」

「ま、実際はそんなこと言ってられないか。毎回ジャイアント・キリングみたいなものだからな。それで切り札出し控えてやられでもしたら、もともこもないからな。……ん?」

 夕季の異変に南沢が気づく。

 夕季は両目をカッと見開いたまま、南沢の顔を凝視し続けていた。

 周辺のノイズすら何一つ届いていないがごとく。

「どうした、夕季」

 その呼びかけに夕季がはっとなる。

「……何も」

「そうか」安心した様子で南沢がまた周囲へ気を配った。「この話はもうやめといた方がいいな。誰が聞いているかわからないからな」

「……」

 夕季はそれに答えようとはせず、不安げなまなざしを窓の外の景色へとさし向けた。

 静かなる世界の中、雲一つない青空へしだいに暗雲が垂れこめていくさまを眺めるように。






                                     了


 ご清聴ありがとうございます。あいもかわらず、一話完結のスパロボ展開を目指すとモモタロー進行から脱却できません。そのくせ関係ないところで盛って盛って、無駄に長くなっちゃったり。スキルのなさは置いといて、ラスト五分でモンドコロ出しちゃったりするお約束とかも好きなので、今に始まったことではありませんが。そんな自分的今年のメディア大賞はキルミー……、ゲフンゲフン!……

 よろしければまたのお越しをお待ちしております。



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