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第二十二話 『ノイズ・アタッカー』 6. コンタクター

 


 その光景に光輔は我が目を疑った。

 医務室のベッドの上で身を横たえ、深く沈むように眠りにつく雅の姿を前にして。

「……これは、なんで……」

 わなわなと手を差し出す。それから後の言葉が出てこなかった。

 キッとなって礼也に振り返り、光輔がその肩にしがみついた。

「おまえ、知ってたのかよ!」

 面倒くさそうに、ちっと舌打ちした礼也が、光輔から目線をそらした。

「たまたまだ」

「たまたまって、何……」

「うっせえな! たまたまだっつってんだろ!」

「……」

「俺が教えた」

 桔平の声に二人が顔を向ける。

「おまえらにも言っとこうと思ったんだが、その時礼也しかいなかったからな」

「じゃ、なんで今まで黙ってたんですか!」

 礼也を解放し、今度は桔平に顔を近づける光輔。

 それをちらと見て、腕組みしながら桔平が顔をそむけた。

「この娘が黙っててくれって言ったからだ」

「え……」

「おまえらを心配させたくなかったんだろうな」

 光輔の勢いがそがれていく。拳を握りしめ、悔しそうにうつむいた。

 ベッドのそばでパイプ椅子に腰かけていた夕季が、心配げに光輔の顔を覗き込んだ。


 待機所で顔をつき合せる光輔ら四人。

 最初に口を開いたのは夕季だった。

「あたしは何となくわかってた」隣の光輔をちらと見やる。「……何となくだけど」

「……。俺だけ知らなかったってことか……」

「はっきりとは知らない。でも前に綾さんから聞いたことがある。ガーディアンは竜王だけじゃ集束できないって。みやちゃんが何をしていたのかもわからなかったし、その時はうまくつながらなかったけど……」

 礼也と顔を見合わせ、桔平が深く息を吐き出した。

 四人の他に人影はない。現在、進行形で緊急状態にあり、メガル内であるため機密が漏れることはなかったが、それはその場にはおおよそふさわしくもない話題だった。

「俺だって詳しいことを知ってたわけじゃない。ただ、雅がいなけりゃガーディアンが動かないことだけは聞いてた。理由とか、なんでだかはさっぱりだけどよ」

 礼也の独白を桔平が受ける。

「あの娘がいなくてもガーディアンは集束できるし、動かすこともできる。だが、今はあの娘に頼らなきゃ動かせない。そんなところだ」

「なんすか、それ……」

「どういうこった、そりゃ」

 光輔の声に被せ、礼也が前のめりになる。

 夕季も含めた真剣なまなざし達に囲まれ、桔平はすべてを伝える決心をした。

「現用のジェット戦闘機ってのは、そのままじゃどこへ飛んでもおかしくないように設計されているらしい。それをコンピュータで制御して、パイロットの意のままに操るんだそうだ。人間の反応だけで扱えるシロモノなんて、現代戦じゃ何の役にも立たないからだ。戦車や艦船が互いの情報を共有しあって、自分達のフィールドの遥か外側まで状況を把握できるのも似たようなものかもな。それと同じような役割を、竜王やあの娘はしている」

「雅がそのコンピュータの役割をしているって言うんかよ」

「少し違う。コンピュータのようなもの自体は、すでにガーディアンの中に存在する。あの娘はそれを最適化してサポートする、ソフトウェアみたいな役割りといった方が近い。システムをチューンして無駄を省き、竜王を介したおまえ達の思考を効率よく伝える役目だ。それを俺達はコンタクターと呼んでいる」

「コンダクター?」

「違う。コンタクトの方だ。テレパシーとはまた違った、特殊な能力だ」

「……。あの時ラフレシアが撃てなかったのも、関係あるんかよ」

「おそらくはな。攻撃の難易度や大きさも、その時の状態に結構反映されるようだからな。ちょっとした攻撃ならばいつでも出せるが、必殺技みたいな大技は、全員が万全な状態じゃなければ実効できないといったところだろう。おまえらの意思の疎通や、複雑なイメージを瞬時に互いの意識の底まで伝えることができたのも、あの娘がフル回転でつなげててくれたからだろう」

「……これまであたし達がのりきってこられたのは、全部みやちゃんのおかげだったんだよね」

「どうだかな。実際のところ、おまえらがどれだけの働きをしているのか、俺じゃ見当もつかない。ガーディアンは竜王とオビディエンサーさえいれば、集束して動かすことができる。そういう仕組みらしい。だが、おそらくだが、俺達にはガーディアンを作った奴らには当然のようにあった、ある能力が欠如している可能性がある。それを補うための、本来は不要なサポートがコンタクターなんだろう」

「……」

「オビィの疲労やダメージが感応に直接影響してくるように、コンタクターの負担もかなりでかいはずだ。あの娘はグチ一つこぼさずに、ずっと笑いながらそれをこなしてたが、本当は逃げ出したくなるくらいつらかったのかもしれんな。とにかく現状では、俺達はあの娘に頼らざるをえない。今現在、彼女の他には、一人しかその能力の有無が認められていないらしい。それもどちらかと言えば、テレパシスト寄りの亜流コンタクターだ」

「それって……」

 すべてを理解した夕季に、桔平が重々しく頷いてみせる。

「今、樹神雅を失うことは、プログラムに対抗する唯一の手段を放棄するのに等しい」

 絶句する三人。

 顔をそむけ、苦々しく礼也が口を開いた。

「俺らの思ってることも、あいつにゃ全部わかってたのかって」

「それは違う」

「?」

 礼也に淋しげな表情を差し向け、桔平が静かに真実を告げた。

「意識をつなぐのに必死で、おまえらが何を考えているのかまではわからないってよ」

「……んだそりゃ」

「俺達は無意識のうちに頭の中で膨大な量の情報を交錯させている。それが有効なものなのかどうかまでは、コンタクターにははっきりと判別できないらしい。とにかくつなぐのに必死で、何が何やらまでは理解する余裕がないみたいだ。おまえらが揃って同じ意識を彼女に差し向ければ、伝わるかもしれんがな……」


 小さなノックの音に雅が視線を向ける。

「へへへ」心配そうな光輔の顔を確認し、嬉しそうに笑ってみせた。「……やらかしちゃった」

「……。大丈夫?」

「へっちゃら、へっちゃら」

 朗らかに笑う。

 それでも光輔の表情が変わらないことに気づき、少しだけ神妙な様子で天井を見つめた。

「……あたし駄目だな。やっとみんなの役に立てると思ったのに。結局足手まといだね」

「! そんなことないって!」

 慌てて光輔が否定する。

 それを好ましげに眺め、雅がもう一度嬉しそうに笑った。

 その笑みから、しだいに力が抜けていくのを見届け、光輔がせつなそうに目を伏せた。

「やっぱりこういうことって、言いにくいもんだね」雅も同じ顔になった。「ごめんね、光ちゃん」

「……」

「……」

「……」

「……。黙っちゃうの?」

「……あ、うん。……」

「こういう時は、もっと責めてきちゃってもいいんだけどね」

「……うん」

「……」

「……」

「だからいいよ、そういうの。……ウザいから」

「……うん。……」

「……」

「……」

「……へへへ」

「……」

「……ごめん」

「……。……うん」






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