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第二十二話 『ノイズ・アタッカー』 1. 雅暴走

 


『誰だ! 誰だ! 本当に誰だ? 地球は一つ

 (セリフ)いくぞ、木場! よしこい、ハナゲ!

 俺たち二人でぶろろろろ~ん!

 今年でさんじゅう、おぺけぺのぺ

 (セリフ)早く局長になりたい!

 かわいこちゃんには弱いのねん

 残念、中年、なのねんねん

 俺のキックは破壊力、岩砕く

 ほんとに欲しいの透視力

 服だけ消える透視力

 (セリフ)ああ~、透視力、超欲しいっ!

 もっとご飯をおごってね~

 (セリフ)月末はちょっとヤバイ!

 たた~かえ~、ぼく~らの~、桔平さ~ん

 (セリフ)○~ット!』


 大学ノートに綴られた文章を凝視し、桔平が難しい顔になる。

 目線を向けると、正面には満面の笑みの雅がいた。

「……」

 眉を寄せる桔平に、わくわく顔の雅が瞳を輝かせる。

 樹神雅作、『柊桔平公式ソング』の発表会だった。

「……。みっちゃん、ここのとこだけどよ」ノートを開き、気になった部分を指し示す。「破壊力の次に岩砕くってゴロがおかしくねえか?」

 ん? と首を傾げ、雅が嬉しそうに笑った。

「二番のこと?」

「どっから二番なんだ……。他にもいろいろ問題は山積みだけど」

「インを攻めたかったから」

「韻を踏んでるって言いたかったんだよな……」

「なきにしもあらずです」

「ああ……」何とか気を持ち直す。「やたら透視力が強調されてるしよ。超欲しいって。まあ、どんぴしゃなんだけど」

「だしょ?」

「あと、いきなり序盤から木場も登場しちまってるな。しかも結構重要っぽいポジションぽいし。俺の歌なのに」

「なしにきもあらずです」

「言えてねえな……」ぎりぎり踏みとどまった。「やたらセリフばっかだしよ。あ、それとよ、最後の、○~ット! はまずいって」

「そうかな。なんかしまらなかったから、はずみがつくと思って入れたんだけど」

「いや、なんでもそれだけで著作権発生するみたいだぜ、実に」

「それはまずいかも! じゃなしにきも……、なしにきもあらずの方向で! ……ふう~」

「いや、言えてねえって」

「ひゃ~、くわばらくわばら」

「……。あとな、俺、って言ってるのに、最後、ぼくらの、になっちゃってるしよ。結局誰語りなんだろうな」

 はっとなり、ポンと手を叩く雅。

「あ! そうか! だからおかしかったんだ!」

「ほう……」

 不安そうな桔平を置き去りにし、ボールペンを取り出した雅が問題の部分を修正し始めた。

「よし」

「お?」

「最後に『ゴーゴーひいらりん!』の連呼を入れたらバッチグー」

「何がどうなった?」

「チャージマンぽくなったでしょ?」

「何言ってんだ……」桔平の顔に諦めが浮かび上がった。「なんかいろんなとこからちょいちょいパクってんのな」

「いけてるリスペクトルなんだよ。リスペクトルマン、ゴーゴー」

「訴えられそうになったら即座に消しとけよ」

「てへぺろん」

「なんだか、俺らでもよくわかんねえこといろいろ知ってんだな。どうでもいいことばっかだが」

「綾さんがそういうの好きだから」

「あ、奴の影響か。納得だ」

 ふと雅の様子がどこか不自然なことに桔平は気づいた。

「調子悪そうだな」

「ん?」乾いた笑いを向ける。「元気ハツラツだよ。ぴっちぴちの女子大生だから」

「ハツラツか?」

「入学式でいきなり貧血こきましたが」

「……あんまぴっちぴちには見えねえもんな」ふうむ、と顎に手をあてる。「両立はキツいだろうが、そんなんで大丈夫なのか」

「大丈夫、アルマイトしてると思えば。それはアルバイトでしょーが!」

「いや、つっこまねえからな」

「桔平さんの言ってることもわかるんだけど、そうも言ってられなくて」青白い顔で力なく笑いかけた。「だって、今や時の人ともどこぞで噂されたことがあるともないともアルマイトもいう国民的なアイドルになっちゃったわけだから。あ~、有名人はつらいなあ」

「すっかりスルーされまくりって聞いたけどな」

「新歓コンパでイケメン君に言い寄られて困っちゃった。君の瞳は死んだ魚の目みたいだって」

「明らかに下心がないのがうかがえるな」

「脳天ちょっぷをお見舞いしてやったら、ひゃ~って腰抜かして、次の日から嬉しそうに代返してくれたりノート取ってくれるようになりました」

「いろいろ残念なイケメン君だな……」

「でもね、あの娘に似てるね、とはよく言われるんだよ」

「ガッツリ気づかれてねえんじゃねえか」

「てへへへん」

「現物とのギャップが激しいからな、信じられないのも頷ける。実際俺も信じられねえ。詐欺だろ、あれ。実はCGだったんじゃねえか?」

「失敬な。どっちもスリーディーのCGなのに」

「結局CGなんだな……」

「髪の毛の分け方変えただけで気づいてもらえない某アメリカンヒーローの気持ちがわかる気がする」

「あれでわかんねえだろっていう、某アメリカンヒーローの甘い考えがあまりにも理解できねえな」

「だよねえ。あと、スポンジ○ブの声は最初の人の方がよかったな。はっちゃけ具合とか」

「関係なさすぎて何も伝わってこねえな」

「でもその理屈でいくと、メガネとかかけちゃったら、あたしってわからないかもね。それなら平和な女子大生ライフがおくれるかも」

「だから、かけなくても気づかれてねえってのに、よけいせつねえだけだろ」

「クリスマス大会の時の鼻メガネとかならグーだよね」

「そこまでしてみんなにかまってほしいのかよ」

「みんな、あたしを見て!」

「目ぇ剥いてからに、もう……」

「ついでにあたしの歌を聞いて!」

「やめとけって、オンチなんだからよ」

「この無礼者め!」

「はあ?……」

「失敬にもほどがあるよ」なんだこいつはという顔で桔平を睨みつけた。「メガルの歌姫に向かって」

「何言ってんだ……」

「知らないの? そういうアニメとかだと、あたしのポジションは歌姫確定なんだよ。もう、大人気でおおわらわ」

「その歌姫ってのはカラオケでコーラスにつられたり、元歌のカケラも残らねえくらい別の歌にアレンジしちまう痛い人のことか」

「あれはふゅーちゃりんぐって言うんだよ」

「嘘こけ。猫ふんじゃったがいけてねえラップみてえになってたっての。いつの間にか勝手に一人で伴奏と輪唱しちまってるし、確かにおおわらわだわな」

「てへへん」

「ひゃ~、ちっとも誉めてねえのに、すげえドヤ顔してやがる!」

「誰も私から歌を奪えないわ。だって歌は私の友達だ~か~ら~」

「それじゃ、どっかの悪ガキのリサイタルとかわんねえぞ。心臓の弱い老人は三分もたねえな」

「ひがんじゃってまあ!」

「すげえおかど違いだな……」

「ら~らら~、……エホッオエホッウエヘッ!」

「ほらほら、歌姫がとんでもねえ顔になってんぞ。よだれ、よだれ」

「かたじけない。じゅるる」

「まあ、好きなのとうまいのはベッコだからな」

「オンチだから何!」

「……開き直ったぞ」

「何か迷惑かけた!」

「いや、迷惑とかじゃなくて、笑いがとまらねえ」

「ひどい! きい~!」

「壊れたか。……まあもともとこんなもんだけど」

「格言! オンチな人ほど歌を愛する心が強いんじゃない!」

「それはどうだろうな」

「も一つ! カラオケで人の歌をちゃんと聴かない人には本当の賞賛はないんじゃない!」

「そりゃ、自分のことだろ」

「そりぁまあ確かにそうですけど」

「認めちゃったな……」

「でもでも、しぃちゃんはそれでも車の中で幸せそうに歌ってますけどね」

「あいつもヘタそうだな」

「笑いがとまりません」

「自分もじゃねえか……」

「あ、夕季やしぃちゃん達とのユニットにしてみんなで一緒にやった方が楽しいかも。ミーヤービーフォーティーエイトとかミヤザイルとか」

「自分ばっかだな」

「ミヤビー・ピー・さんじゅうはっち!」

「てっぽうの名前になってんな」

「そのうちメガル司令部が母体になってメディアミックス展開が始まるって噂だから、レッスンしておかなくちゃ。忙しくなるぞ。キラッ」

「俺も結構前から司令部でハンコ押す仕事してるけど、そんな話これっぽちも聞いたことねえな」

「おかしいな、すでにデビュー曲まで決まってるって聞いたんだけど」

「曲名は?」

「雅のいーじーわーるど」

「それは俺が流したデマだ」

「何の根拠があってそんなこと言うの。悔しいのはわかるけどみっともないよ」

「いや、だから流した本人がそう言ってんだから……」

「すぐそういうこと言う。スポンサーがキャンペーン用のクルマだって買ってくれたのに今さら変だよ」

「スポンサーじゃなくって、こないだのご褒美に、あさみがポケットマネーで買ってくれたんだよな」

「しぃちゃんがすごくうらやましそうにこっち見てましたけど」

「遠慮なくいただきやがったからな」

「相手に恥をかかせたくないという大人の配慮から仕方なくです」

「顔から湯気が出るくらい興奮してたじゃねえか。鼻息、ふんはふんは、してたぞ」

「欲しかったのだったからです」

「あんなモノ欲しそうな顔した女、ルパンのまわりにだっていねえぞ。……そういや、俺も不○子ちゃんの声は最初の方がよかったな」

「いるよねえ。すぐそうやって自分はちょっと違うんだぞってアピールしたがる人」

「あのなあ……」

「でも色とかまでどうしてわかったんだろ。超能力でも使ったのかな?」

「ずっと前から俺のまわりにこれ見よがしにカタログとか置きまくってたからだろうな。グレードとかオプションのとこにでっけえ赤丸つけて。ちっとも、でも、じゃねえな」

「絶対はずせなかったELTもばっちりついてたし」

「ETCな」

「それ何に使うの?」

「知らねえのかよ……」

「スカッドレスのタイヤもおまけでついてたし、サービス満点」

「スタッドレスだ。それはサービスじゃなくて俺の給料から無理やり……」

「思わずみんなに自慢しちゃった。しぃちゃんの顔ったら、ぷぷぷ」

「腹いっぱい食った後で高級メロンとか出されたような顔してたな」

「酢豚の中にパイナップルがどっちゃり入ってたような顔でしたね」

「朴さんが変なモンつけようとしてたから気をつけろよ」

「みんなにつっこまれまくったから、ミサイル以外は駄目って言っておいたけどねえ」

「……ミサイルはいいのか」

「ナンパ対策で」

「まさかナンパしたくらいでミサイルぶっぱなされるとは、誰も夢にも思わねえだろうな」

「違うよ。イケメンを逃がさないために使うの」

「こっぱみじんになったらイケメンかどうかわかんねえじゃねえか……」

「名前もつけたんだよ。コダマ号ゴーゴー」

「信号とか駅とか全部ガッツリ止まりそうな感じがするな」

「最高時速マッハ四十キロメートル」

「マッハなのに一時間で四十キロしか進まねえわけか」

「安全第一ですから」

「だったらミサイル積んじゃ駄目だぞ」

「来週納車だから、早速ドライブに行くの。光ちゃんと夕季と礼也君と……」

「早く免許取れな」

「のっけから落ちまくりだよ、とほほほ」

「よかったな、費用こっちもちで。ちなみに落ちた分は自腹な」

「え、初耳。う~ん……」難しい顔で腕組みをしてみせた。「これ以上桔平さんに迷惑かけないように頑張らなくちゃ」

「う~ん、どういう意味なんだろうな……」

「ね~」





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