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第二十二話 『ノイズ・アタッカー』 OP

 


 華やかな笑顔と笑い声の中心で、夕季は戸惑いに包まれていた。

 取り囲むは、光輔やみずきを始めとする、その友人らである。

 何故だか一人場違いな空間に放り込まれたような気になり、夕季が居心地悪そうに目線を伏せる。

 そこへみずきの屈託のない微笑みと朗らかな金切り声が乱入してきた。

「本当だよ、あたしもう駄目だって思ったんだから。それでギリギリのところでゆうちゃんが助けに来てくれたんだよね。どっぴゅーん、って」

 戸惑いながら夕季が顔を向ける。

「……ん、う……」眉間にしわを寄せ、やや顎を引いた。「……だったのかな」

 みずきの容赦ない口撃は続く。

「あたし、すぐにわかったよ、ゆうちゃんだって。すごいんだよ、空竜王って。すらっとしててピカピカでカッコいいの。穂村君のロボットみたいにごつくてダサくない」

「あのねえ……」

「ちなみに俺も祐ちゃんなんだけどよ」

「羽柴君は諦めて」

「諦めんのか?」

「古閑さん、今度俺も空竜王に乗せてよ」

 光輔と祐作を押しのけ、茂樹が停止線の前へ足を踏み入れようとする。

 それにみずきがストップをかけた。

「ダーメ! そんなに簡単には乗せてあげない。せめて死にそうになってからじゃないと。あたしみたいに」

「なんだ、そりゃあ。てか、なんで篠原がセンター張ってんだ」

 茂樹が怪訝そうな顔をする。

 そんなことなどおかまいなしで、みずきは満面の笑みを夕季へ差し向けた。

「あたしはいいの、特別なんだから。ね、ゆうちゃん」

「……う、ん」

「特別ウゼーって思われてんぞ、絶対」

「思われてない、全然。ゆうちゃんはあたしの命の恩人なんです! みんなは誰かに命を助けてもらった経験とかないでしょ。だから特別でいいの!」

「何痛いこと言ってんだ?」

「何よ。泣いて頼むから連れてきてあげたのに心外。曽我君は穂村君のカッコ悪いロボットに乗せてもらえばいいじゃない」

「あのね、篠原……」

「確かに泣いて頼んだが、やだわ、あんなダセーの!」

「あのさー! 茂樹!」

「乗らない方がいいよ」

 夕季の呟きに全員が注目する。

 光輔のみ、淋しそうな顔をした。

「……おまえもか」

 光輔と同じ表情になり、夕季はみずき達を見つめた。

「あんなの乗ったって、ちっともいいことなんてないから」

「ゆうちゃん……」

「……」眉をひそめ、茂樹が沈黙を切り裂く。「そんなにダセーのか、光輔のやつ」

「おまえってば、脳みそ腐ってんの?」

「何だと、聞き捨てならねえぞ」

 光輔対茂樹の低レベルな争いを捨て置き、勝手に冷蔵庫を物色していた隆雄が、きらめくまなざしで振り返った。

「古閑さん、ジュース貰っていい?」

「いいよ」ふっ、と表情を和らげる。それを笑顔に結びつけるまでには至らなかった。「よかったら中の物も食べて。あたしだけじゃ、そんなに食べられないから」

 途端に祐作が踊り上がった。

「やり、俺シュークリーム、ゲッツ!」隆雄を押しのけ、箱ごとぶっこ抜く。「ここの超ウマイんだよな。レー何とかってとこの」

「それ、俺がひそかに狙ってたのに。タイミングとか見てた感じで」ぶすりと突き刺し、夕季へ薄笑みを向けた。「古閑さんも食べる? どれがいい?」

「あ、……うん」顎を引いて身がまえた。「……レモンサワー」

「オッケ」

「まだ退院できねえの?」

 シュークリームをくわえながら、祐作が何の気なしにたずねる。

 それを夕季は同じ姿勢のまま受け止めた。

「今度の検査次第で退院できるかもしれない」

「へ~、よかったじゃん、早めで」

「……うん」

「でもやっぱ、違うよな、古閑ちゃんは」

「……」

「いつもぴしっとしてるし、絶対弱音とかこかねえもんな。普通、泣き、入るだろ。俺らとは作りが根本から違うわ」

 祐作がうんうんと頷く。

 それを夕季は表情もなく眺めていた。

 夕季の脳裏に、過去の記憶がたたみかけるように浮かび上がってくる。

 友人と呼べたかどうかも定かではない昔の知り合い。

 夕季の素性を知り、逃げるように去っていった見知った顔達。

『古閑さんは私達とは違うから』

 違う? 何が?

『違うから……』

 どうして……

 それを恨むわけではない。ただ同じ想いを繰り返すよりは、何もない方がまだマシだと感じていた。

 期待を寄せることもなく、求めるわけでもなく、ただ成り行きに身をゆだねる。

 それが互いのためでもあると心に刻んでいた。

「違わないよ」

「はあ?」

 はっとなり顔を向けると、シュークリームを両手で保持したみずきが、何食わぬ様子で祐作を見つめていた。

「ゆうちゃんも私達と同じ普通の高校生なんだから。ちょっとだけ他のみんなより正義の味方で、スーパー女子高生なだけだよ」

「いや、それが普通じゃねえじゃん……」

「でも同じだよ。泣いたり笑ったり悩んだり、昼ドラ録画してこっそり観たり、変なストラップつけてたり。こう見えても泣きごと言いまくりなんだから。ね」

「あ、う……」

「ごめん、そうでもないみたい!」

「昼ドラはお姉ちゃんが……」

「しぃちゃん、好きそう……」

「変なストラップって、篠原がケイタイにつけてるののことだろ。痛いアニメのキャラの」

「そういうこと言わない!」

「自分で言ったんじゃねえか。なんだよ。全部自分のことじゃねえか」あきれ顔の祐作が振り返る。「古閑ちゃんはそんな変なのつけねえって。な?」

 夕季が携帯電話をさっとベッドの中へ隠した。

「はい」

 ジュースを持ってきたみずきへ顔を向ける。

 夕季は知っていた。

 その笑顔が偽りではないことを。

「ありがとう」表情もなくそれを受け取る。

 するとみずきがさらに嬉しそうに笑った。

 やがて夕季がかすかに笑う。

 心から嬉しそうに。






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