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第二十話 『絶望のトリガ』 14. 世界一の笑顔

 


 雅は誰もいない薄暗い部屋の中で立ちつくしていた。

 ふと陵太郎の写真に目をやり、静かに笑いかける。

 遠い日の記憶が鮮明に蘇りつつあった。


          *


「どうしていつもヘラヘラ笑ってるの?」

 何気なく雅が問いかける。

 すると陵太郎は苦虫を噛み潰したような顔になった。

「ヘラヘラじゃない。ニコニコ笑ってるんだ、俺は。実に爽やかだろ」

「キモいよ」

「な! こら、キモいとか言うな。言われる方の身にもなってみろ」

「だって」

「だっ、て?……」

「あっははは」涙のあとを隠すように、雅が楽しそうに笑う。「でもどうして?」

「笑顔ってのはな、力をくれる。見ているその人を勇気づけることができるんだ。慰めなんかじゃなくてな」

「ホントかな」

「俺はそう信じてる」

「信じてるだけなんだ。根拠とかないんだよね」

「根拠ならある」まじまじと雅の顔を見つめ、陵太郎がおもしろそうに笑った。

「?」

 背中に隠した包みを差し出し、陵太郎が爽やかに笑いかけた。

「雅、誕生日おめでとう……」


          *


 陵太郎の写真を見つめ、雅が力なく笑う。

 拳でノックの真似をした。

「コンコン」写真の中の陵太郎は、今日も雅を励ますように明るく笑いかけていた。「今日も世界一の笑顔をありがとう」

 その時、玄関の方で物音がした。

 コンコン!

 雅が振り返ると、ガチャガチャとドアノブを回す音が聞こえた。施錠してあるためドアは開かない。

 ドアの向こうでこそこそと話し声がし、それからドンドンと乱暴にドアを叩く音へと変わった。

「そんなに強く叩かなくても……」光輔の声がした。

「うるせえって!」礼也の声だった。

 雅がじっと様子をうかがう。

「雅、いるか。おい、白状しろ!」

「白状って、おまえ……」

「おい、雅! とっとと返事しやがれ!」

 問いかける礼也の声に、ようやく雅が反応した。

「……礼也君?」

「んだ。いるなら早く開けろっての」

 錠をはずし、雅がドアを開ける。

 すると、光輔、礼也、夕季の顔が見えた。

「いねえと思ったじゃねえか。なんかやってやがったのか?」

「ごめんごめん。調子悪くて、さっきまで寝てたんだ」

「みやちゃんも?」

 雅が夕季に不思議そうな顔を向けた。

「あたしもさっきまで寝てた」

「夕季も?」

「うん。まだ頭がくらくらするけど」ふいに目線をそらす。「お姉ちゃんがゾンビ映画ずっと観てて、夢に出てきてうなされた……」

「てめえは根性ねえな」

 夕季が恨めしそうに礼也と光輔を眺める。

「どうして二人ともピンピンしてるの。あんなに苦しがってたのに」

「ああ! てめえとはカラダの作りが違うんだって」

「俺、今日が休みだったから、あの後ずっとゲームしてた」

「……なんだか一人だけ損した気分」

「てめえ一人でやった感じになってんじゃねえぞ!」

「そうだよ、俺達みんなで一緒に希望の掛け橋を渡ったじゃ……」

「ウゼえぞ、てめえは!」

「本当にウザいと思う」

「おまえまで……」

 三人のやり取りを眺め、おもしろそうに雅が笑う。

 それに気づき、礼也が話を戻した。

「カゼか?」

「そんなとこ」

「気ぃつけろよ。おまえはイジワルのくせにカラダ弱えんだからな」

「うん」嬉しそうに笑った。「みんな、どうしたの?」

 ちらちらと顔を見合わせ、光輔が口火を切る。

「あ、あのさ、桔平さんがご馳走してくれるって」

「え、マジで?」

「うん。お祝いで」

「ん?」

 夕季がやや緊張の面持ちで一歩前へ出た。

「みやちゃん、お誕生日おめでとう」

「……」

「十八歳だね」

「うん、夕季のいっこ下」

「違う……」

 うふふふ、と嬉しそうに笑い、礼也と光輔に振り返る。

「これでパチンコにいけます」

「こないだオッサンとやってたじゃねえか……」

「二千円すりました!」

「桔平さんのお金だよね……」

「エッチな本もどうどうと買えるし」

「見てえのかよ……」

「お酒とかタバコとかもオッケーだしね」

「それはオッケーじゃないよね……」

「車も乗れるね。早速しぃちゃんに借りてこよう」

「先に免許取りにいけって……」

「光ちゃん、ドライブスルーとか行きたくない?」

「おまえとは行きたくない……」

「何~!」

「オッサンのことだから、プレゼントとかも買ってあんじゃねえか?」

「桔平さんならたぶん……」

「は!」礼也と光輔を真顔で見比べ、雅がはっとなった。「車かな? 車くれるのかな? 桔平さん!」

「……百パー違うだろ」

「……違うだろうね」

「そうかな? でも前に朴さんに頼んだら、作ってくれるって言ってたよ。ボンネット開けるとオール電化が入ってて、ポップコーンとかお肉が焼けるようになってて、ナビとかELTとかアルミホイルとかスカッドレスのタイヤとかミサイルとかもついてるやつ。後ろのトランクで犬も飼えるんだよ。チワワ。う~、わんわん!」

「……おまえの車にはエンジンついてねえのか」

「どこからつっこんでいいのかわからないけど、とびきり変なのがあったね。……あ、インプ対策にはなるか」

「そう。いきなりインプとかに襲われても、犬が守ってくれるから平気。いけ~! って」

「いや、ミサイル撃てよ……」

「チワワだよね……」

「だって、危ないよ。慌ててミサイルとか撃って、犬に当たったらかわいそうだし」

「じゃ、つけんなよ……」

「いろんな意味で犬がかわいそうだね……」

「ミサイルは光ちゃんに撃つからいるの」

「そういうことか」

「俺、ミサイル撃たれるようなことした?……」

「ウザいじゃん」

「確かにウゼえけどな」

「あのさ……」

 やれやれという様子で、礼也と光輔が顔を見合わせる。

「でっけえケーキも頼んだんだってよ。イチゴまるけの」

「何食べたいか聞いてこいってさ」

「……」途端に雅がにゅっと笑う。「ベトコンラーメン。あと城ノワールのハシゴで」

「んだ、そりゃよ」礼也があきれたようにそっぽを向いた。「ったく、極上メロンパンまるけにしとけって話だ」

「駄目。礼也君も食べてみなよ。おいしいから。おいしすぎてメガネずり落ちちゃうかもよ」

「いや、かけてねえだろ……」

「夕季なんてきっと、思わず、ウマイニャ~、とか言っちゃうから」

「……言わないと思う」

「……俺もそう思う」

「だっていやだもん、とか昨日は言ってやがったけどな」

「……」

「光ちゃんは激辛百倍ラーメン、チャーシュー抜きね」

「なんで!」

「あっははは!」

 雅が楽しそうに笑う。

 それを見て、光輔達も穏やかな気持ちになれたような気がした。










                                     了


 あけましておめでとうございます。


 お読みいただきましてありがとうございます。

 もともとはここで二部の切りというはずでしたが、遅筆な上脱線好きなため、こういったペースになってしまいました。

 少し休憩いたしますが、これに懲りず再開後もまたお越しください。全力で感謝。



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