第二十話 『絶望のトリガ』 OP
樹神雅は暗闇の中、一人膝を抱え込むように座り、顔を埋めていた。
外の物音に気づき、目線を向ける。
睨みつけるその瞳から、涙が頬を伝って落ちていった。
トントン、と軽く手で叩く音がする。
その後、陵太郎の声が聞こえてきた。
「コンコン」
「……」
「コンコン。誰かいますか?」
「……」
優しく問いかけるような陵太郎の声にも、雅は反応しようとしない。
それでも陵太郎は調子を変えることなく、朗らかに次の言葉を繰り出した。
「ひょっとして、この中に笑顔の素敵な女の子がいませんか?」
雅は暗闇からその声の先を睨みつけていた。
やがて押入れのふすまが、すっと開く。
涙の通り道を手の甲で拭いながら、雅が顔を出した。
涙目のまま雅が、にゅっと笑うと、陵太郎も楽しそうに笑ってみせた。
「やっぱりいたな。自称、世界一の笑顔が」
その眩しさに、沈んでいた雅の心が晴れ渡っていく。
「にへへへ」と嬉しそうに笑った。
*
他に誰もいない薄暗い部屋の中で雅が立ちつくす。
棚の上に飾られた陵太郎の写真に目をやり、静かに笑いかけた。
軽く拳を握り、ノックの真似事で宙を叩く。
「コンコン、誰かいますか?」
当然誰からの返答もない。
もう一度、それを繰り返した。
「コンコン。誰かいますか」淋しそうに笑い、写真の中の笑顔を見つめた。決して返ることのない、涼しげなまなざしを。「誰か、いませんか……」
唇がわなわなと震え始める。
それから雅はベッドにうつぶせて、呻くように泣き出した。