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第十九話 『プライマル』 9. 解けた謎

 


 勢いの衰えたガーディアンを上回るスピードでヴォヴァルが猛進する。

 叩きつけられたランスを臥竜偃月刀の両手持ちで防ごうとしたが、今のガーディアンには踏みとどまるだけの余力すら残されていなかった。

「野郎、これを狙ってやがったのか」

「違う」

 強烈な光の目くらましとともに吹き飛ばされ、歯がみする礼也に、夕季が苦しげに告げる。

「もう、あたし達には興味がなくなっただけ」

「はあ!」

「打つ手がなくなったあたし達を、あいつはもう敵とすら認めていない。……これ以上、茶番につき合う理由もなくなったから」

「茶番だと……」

 続けざまに繰り出された二撃目、三撃目も同じく受け止めようとする。だが結果は同じだった。

 ヴォヴァルの攻撃に力を込めて立ち向かえば、その分上乗せされて跳ね返ってくる。そして抵抗しなければ、ただ打ちつけられるのみ。

 礼也達にできたのは、何もせずに逃げ回ることだけだった。

 鈍く輝くランスの尖端が、ガーディアンの胸もとを貫こうと迫りくる。

「礼也、ブレイク!」

「仕方ねえ!」

 緊急回避のため、ガーディアンが三体の竜王へ分離した。

 それぞれが別方向へ展開し、ヴォヴァルの攻撃の矛先を逸らそうと奔走する。

 空竜王は空高く飛び上がり、陸竜王と海竜王は建物の陰へと身を潜めやり過ごそうとした。

 獲物を求め悠然と周囲を見渡すヴォヴァルに、礼也と光輔は片時も緊張の面持ちから解放されることはなかった。

「くそ、マジでここまでかっての!」礼也がサイドパネルへ拳を叩きつける。「情けねえ! 刺し違える方法すら思いつかねえ。レッドなのによ!」

 陸竜王が瓦礫を踏み外すそのかすかな物音に、ヴォヴァルが反応した。

「ち!」

 繰り出された巨大なランスが、礼也と陸竜王がいた領域をまるごと払い飛ばしていく。

 間一髪で跳び出した礼也が、ナックル・ガードを連続展開し、次から次へと壁面へ取りついて危険区域からの離脱をはかろうとした。

 しかしヴォヴァルのロックオンは解除されることもなく、陸竜王の動きをトレースするように執拗に追従し続けてきたのだった。

 陸竜王が取りついた後には、確実に崩壊が訪れる。衝撃とヴォヴァルの駆逐によって。

「礼也!」

 礼也を援護しようと飛び出した光輔が、海竜王の手のひらから霧を噴出させ撹乱を試みる。

 するとヴォヴァルがくるりと振り向き、海竜王に狙いを切りかえ追い始めた。

「光輔、逃げろ! そんなもの奴には通用しねえ!」

 直線的に海竜王をとらえ、まばたきする間も与えずヴォヴァルが間合いを詰めていく。

「く!」その迫力に思わずのけぞりかけた光輔だったが、ぐっと両眼に力を込め覚悟を決めた。「来るなら来い!」

 両腕から銀色の長爪を繰り出し、海竜王が眼前の敵にファイティングポーズを叩きつける。

 朝焼けを受け、海竜王の全身が妖しく乱反射していた。

 その時、ヴォヴァルの足もとへ風の散弾が突き刺さった。

 ゆらりと空を見上げるヴォヴァルと海竜王。

 はるか上空から急降下しながら、白銀にきらめく機影が飛び込んでくるところだった。


『夕季、当てるな! 絶対に当てるなよ!』

「そんなのわかってる!」がなり立てる桔平に夕季がうるさそうに吐き捨てる。「気が散るから黙ってて!」

 カミソリ一枚分の隙間を残し、空竜王がランスのなぎ払いを潜り抜けた。

 見たもの、近寄るものすべてに反応するヴォヴァルが、今度は夕季の空竜王を追いかけ飛び上がってきた。

「夕季!」

 心配そうに呼びかける礼也に、夕季が応答する。

『あたしがこいつを引きつけるから、礼也達はその隙に基地まで逃げて』

「逃げろだ? バカ野郎、てめえ、どうする気だ」

『なるべく被害がなさそうなところへヴォヴァルを誘い込むつもり。できればそこで決着をつけたい。何かわかったら連絡するから、その間にとりあえずの対策を考えておいてもらって』

「オッサンにか!」

『……進藤さんに』

「どうやって俺らがそこ行きゃいい」

『……。一旦通り越して、帰ってくる間に来てくれればいい』

「はあ! てめえが一分飛ぶ距離で、俺らがどんだけ走らされんのかわかってんのか!」

『なら、真上に向かって飛ぶ』

「だから、どこまで上がる気だって!」

『……。宇宙』

「はあ! 行けんのか!」

『……冗談だけど』

「バカ野郎、センスもねえくせに、こんな時だけツマンねえギャグかましてんじゃねえぞ!」

『せっかく考えたのに……』

「うっせえ、ボケ!」

『……』

「おい、逃げ切れねえぞ。マジで」

『あと十時間くらいなら飛び続けられる』

「ふざけてんじゃねえ! ただでさえ寝不足だってのに、そんな無茶決め込める訳ねえだろ。すぐガス欠起こしちまうって」

『大丈夫。一度どこまで高く上がれるか試してみたかったし』口もとを引きしめ、凛としたまなざしを向けた。『とにかくやってみる』

「おまえ……」

『礼也』

「……おお」光輔からの呼びかけに、礼也が目線を差し向ける。眉間に皺を寄せ、噛みしめた歯と歯の間から憤りを吐き出した。「野郎、ハラくくりやがったな」

『みたいだね……』

 光輔も夕季と同じ表情だった。

 そして礼也も。

「ったくよ。……!」ふいに周囲を見回した礼也の顔から、みるみる血の気が失せていった。「あんま、空気読めるタイプじゃねえみてえだな」

『?』

「戻ってきやがった。天然すぎてハメることもできねえのか、それともガーディアンでもマーキングしてやがんのか……」

 礼也の眼前へヴォヴァルが降り立つ。

「メンドくせえ……」ランスを振り上げ猛突進を開始する巨影を、陸の王者が真っ向から迎え撃とうとした。「まあ、何でもいいわ。考えてもなんもわかんねえし、シンプルにいっとくか。!」

 礼也が露骨に顔をゆがめる。

 陸竜王に被さるように、漆黒のウォーリアー、海竜王が立ち塞がっていた。

『てめえ、邪魔だ!』

「俺の後ろから攻撃しろよ。俺が受けるから」

『はあ!』

 思いがけない提案に素っ頓狂な声をあげた礼也へ振り返ることもなく、光輔が涼しげな笑みを浮かべてみせた。

「こっちの方が防御力は上だから、俺が限界になるまで、おまえは何も考えずに攻撃し続けろよ」

『はあ!』

 最短距離で接近しつつあるヴォヴォルを視界の奥にとどめ、礼也がギリと歯がみする。

「限界きたらどうすんだって」

『大丈夫。その前におまえを置いて華麗に逃げるからさ』

「はあ!」

『……冗談だけど』

「ったくよ……」陸竜王のコクピットの中、礼也が辟易した様子でヴォヴァルを睨みつけた。「なんでてめーらそろって、ハラくくった時に限ってイテえウケ狙ってきやがんだ」

『……ははっ、なんでだろ』

「まあよ、中身が救えねえのは今に始まったことじゃねえかっ!」大地を踏みしめ、陸竜王が拳を前へ突き出す。バーン・クラッカーのかまえだった。「貰っとくぞ、光輔!」

「オッケッ!」

 長爪をクロスして防御の姿勢を堅持する海竜王の脇から、礼也が渾身の一撃をヴォヴァルへ見舞う。

 だが、それによってダメージを被ったのは盾となって立ちはだかった海竜王ではなく、その背中に守られた陸竜王の方だった。

「ぐあっ!」

『礼也!』

 ノーダメージのまま振り返り、もんどりうつように後方へ弾き飛ばされた陸竜王を、光輔が目で追った。

「通り抜けたのか、こっちを!」

『光輔!』

 夕季の絶叫に前へ向き直ると、眼前にヴォヴァルの巨体が迫り来るのを光輔は確認した。

「くっ!」

『光輔、逃げて!』

 対応が遅れた光輔を救うべく、高空から夕季が続けざまに拡散空波を放つ。

 牽制のはずが乱れ撃ちの手もとが狂い、そのいくつかがヴォヴァルを直撃することとなった。

「しまった……」

 失策のペナルティを覚悟する夕季。だがいくら待てども、災難は降りかかってはこなかった。

「……」

 口もとを引きしめ、もう一度空波を撃ち放つ。そしてすぐさまそれは、カウンターとなって空竜王へと返ってきたのだった。

「何やってんだ、おまえは!」

 きりもみ状態で落下して行く画面越しの空竜王へ向け、桔平が声を張り上げる。

 地上寸前で機首を返し、夕季が再びヴォヴァルへと挑みかかっていった。

 拡散空波の反転をまともに浴び、今度こそ地表へ激突する空竜王。よろめきながらも何とか立ち上がった。

 朦朧とする意識の中、突進してくるヴォヴァル目がけ、夕季がブレードをかまえる。ヴォヴァルに対して真っ向勝負を挑むつもりだった。

「やめろ、バカ野郎! 早くそっから逃げろ!」焦ったように桔平がわめき散らす。「逃げろ! 早く!」

 懸命の呼びかけが届くこともなく、夕季が逃げる素振りを見せることはなかった。

「逃げろ! 夕季! バカな真似はやめろ! 早く逃げろ!」

 ダメージを払拭しきれずにふらつき、それでもしっかりと大地を踏みしめ、空竜王がもう一度空波を放つ。

 弱々しげに振り絞るように繰り出された攻撃を、誰もが無駄な悪あがきと思っていた。単なる自殺行為であると。

 が、それによってもたらされたのはカウンターによる打撃ではなく、ダメージを重ねずに立ちつくす空竜王と、かすかな反応を見せ一瞬足止めされたヴォヴァルの姿だったのである。

 スタンドマイクを握りしめたまま、桔平が言葉を失う。

 礼也や光輔も同様だった。

「どうなってんだ……」

『あ……』

 夕季がさらに一太刀を加える。今度はまともに返し技をくらい、空竜王が後じさった。

 ただし、五分の力で。

『光輔! 礼也!』

 あ然とする礼也達の心を呼び覚ます夕季の叫び声。

『からくりがわかった』

『ほんと……』

「何! ほんとうか!」

 ディスプレイの中、夕季が頷く。

『集束しよう』

『よし、わ……』

「おし、わかった! カタあ、つけんぞ!」

 礼也の号令とともに、再びガーディアンが集束する。

 朝陽を浴び、その姿は勇壮に輝いて映った。

 すぐさま臥竜偃月刀を上段にかまえるガーディアン、グランド・コンクエスタ。

 音も立てず、地表を滑るように間合いを詰めるヴォヴァルを、必殺の領域で待ちかまえた。

「で、どうすんだ、てめえ」

 前だけを見据え、礼也が奥歯を噛みしめる。

 同じ体勢で夕季がそれに答えた。

「あたしの言うとおりにして」

「……ち、しゃあねえな」

 礼也を見つめ、夕季が小さく頷く。

「んじゃ、いっとくか!」

「うん」

 それを横目でちらと見て、少しだけ光輔が淋しそうな顔になった。

 その時、勢いをそぐ横槍が三人の心に待ったをかけた。

『おい、やめろ、おまえら!』







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