第二十七話 『傷』 OP
照明のない薄暗い部屋の中、窓から射し込む薄日にあらわとなった半身をゆだね、三雲杏那は鏡に映し出された自らを睨み続けていた。
燃え盛る憎悪のまなざしで、眉一つ揺らすことなく上着を脱ぎ捨てる。
グレイのインナーから飛び出した左肩に、パイルを打ち込んだような大きな痕跡があらわとなった。上腕の外側には大きな絆創膏が張られてあった。
心臓のすぐそばまで刻まれた傷跡に触れ、三雲が顔をゆがめる。
戒めとして己に刻んだその行為によって、醜悪なる記憶が鮮明に蘇りつつあった。
苦痛にゆがむ表情の三雲の目の前には、涼しげな笑みをたたえるかつての木場の姿があった。
『違う』
弱者をいたわるような木場の優しげなまなざし。
『私は弱くない』
遠のく意識。
『私は』
心が激しく痛みを訴え続ける。
『私は、弱くない……』
三雲が鏡を叩き割る。
手のひらと噛み切った唇から、鮮血が滴り落ちていた。
充血した両眼と同じ色。
怒りの色の。
差し込む月明かりを三雲が睨みつける。
すべてを否定し、自分以外の弱いものを認めることのない、ゆがんだまなざしで。
弱く小さく、他人に依存することでしか生きていけない存在が、何より許せなかった。
『私は弱くない!』
唇を強く噛みしめ、そう自分に言い聞かせた。
発動予告を受け、主要メンバーに招集がかかる。
プログラム名は、すでに駆逐したはずのケルベロスだった。