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第二十六話 『挟撃』 10. トラスト・ブレイカー

 


「お……」

 通路を歩いていた礼也らが言葉を失う。

 そこには満面の笑みをたたえる雅の姿があった。

「みんな、お疲れ様」

「おまえ、いいんかよ……」すっかり顔色のよくなった雅を、礼也がしげしげと眺める。「なんか、救急病院運ばれて絶対安静だとか聞いてたんだけどよ」

「局長さんがそうしとけって言ってくれたから」

「へ?」

「は?」

「……」

 ぽかんとする三人をおもしろそうに眺め、雅が素敵な笑みを浮かべる。

「いつもいつもバタンキューで、それじゃいくらなんでもワンパターンでしょ。そうなる前に仮病使っちゃえって局長さんが提案してくれたの。もしもの時にほんとに動けないと困るからって」

「……」ようやく事情が飲み込めてきた礼也が惚けた顔を向けた。「で、ギリ、間に合ったてわけか」

「……」ふいに雅の顔が曇る。それから暗い空を見上げるようにそれを押し出した。「あれは、あたしじゃない……」


 部屋へ足を踏み入れたあさみを、怒り心頭に発した桐生三兄弟が揃い踏みで睨みつける。

 その凄まじいまでの圧力の前にも、あさみは不敵な笑顔を崩すことはなかった。

「あなたが下ろしたのか。進藤局長。もしそうなら……」

「私じゃないわ」

 藤鋼の言葉をあさみが遮る。

 続けざまに響いたのは、そこにいた誰もが予想だにしない人間のものだった。

「私が許可した」

 あさみの背後にいた女性隊員が冷たいまなざしを三兄弟に向ける。

 コンタクターとしてプロジェクトに参加していたメンバー、三雲杏那だった。

「貴様、何の権限があって!」

 怒りに任せ剛力が前へ出たところに、三雲が一枚の書類を突きつける。

 そこには火刈のサインが添えられ、こう書かれてあった。

 一切の権限をここに記された者に一任するものとする、と。

「私の目的はコンタクターとしてのガーディアンの集束。もしそれを妨げ、ガーディアン並びに竜王に実害をもたらすような存在があれば、ただちに除外してもかまわないという許可はいただいている」

「いつそんな特命書を!」

「日付を見ればわかる」ジロリと綱澄を睨めつける三雲。「あなた達が辞令を受け取るよりもはるか以前だ。あなた方が集束に協力するというのならこのままプロジェクトへの参加を継続させようかとも思ったが、それが無理ならば必要ない。少なくとも、私のプロジェクトには」

「貴様の、プロジェクト……」

「これではまるで……」

「本当に我々は……」

「……三バカじゃねえか」

「……」

 桔平の呟きすら耳に届かず、すっかり固まってしまった三兄弟とともに三雲に注目し続ける木場。

 それを尻目に桔平が、すまし顔のあさみをちらと見やる。

「……。おまえ、知ってやがったな」

「オフコース」

「どうりですんなり見逃したわけだ。なんで言わなかった」

「聞かなかったから」

「……ベタすぎだろ」

 そんなやり取りすら顧みず、通りすがりのこの場所で、今、一つの重大な決断が下されようとしていた。

「いくらシミュレーションで満点を取っても、実戦にエントリーすらできないようでは意味がない。実際にあなた方がいなくても集束はできた。つまり、あなた達はいてもいなくてもどうでもいい、無意味な存在ということだ。いえ、いれば害を及ぼすのなら、いっそ不要だと切り捨てるべきか」

 三雲が笑う。

 あさみの笑みより冷たく、そして悪意のあるまなざしだった。

「現時刻をもってあなた方をこのプロジェクトから解任します。まだここでやっていけるようなレベルには至らないようですから」

 狐に摘ままれたように目も口も開いたまま立ちつくす桐生三兄弟を、哀れむでもなくただ無表情に三雲が流し見る。

 それから、蠍のような毒針を三兄弟ののど元に突きつけたまま、桔平とあさみへと振り返った。

「私は包括的な権限などいらない。ここに書かれているもののほとんどは、そちらへ任せたいと考えています。コンタクターとしての優先権と、オビィを従わせる権限だけが欲しい」

 そこに木場がいることすら、なんら気にもとめないように。


 血のように燃える夕陽の炎を浴び、二人の男女が向かい合うのを、忍は建物の陰に身を潜め眺めていた。

 困惑の表情で立ちつくす木場の前で、激しい紅の憎悪を差し向ける女。

 三雲杏那が、凶悪なまなざしを叩きつける。

「貴様から受けた屈辱を私は忘れない。貴様は私を陵辱した」

 睨みつける鋭利な響きからは、微塵の猶予すらもうかがいえなかった。

 そして戸惑うのみの木場の眼前で、三雲は己の上着を躊躇なく剥ぎ取ってみせたのである。

 左肩口から心臓へと導かれた大きな傷跡を、惜しげもなく晒して。

 人影途絶えた滑走路の端で、航空機の離陸音に三雲の声がかき消される。

 だが忍には聞こえていた。

 振り向きざま、三雲が確かに木場にそう告げたことを。

「この傷の借りは必ず返す」

 と……





                                     了


 お読みいただきましてありがとうございます。

 おなじみの展開、お約束の噛ませ犬とありきたりなキャラ設定。これらをすべて王道やリスペクトという言葉でくくり、耳を塞いで自己弁護としている今日この頃です。終盤に問題児を投入した次第ですが、この元キャラに気づいていただいた方には、ニヤリとできるような作りにしていければいいなと思っています。そしてガッカリ……

 よろしければまたお越しください。



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