第二十六話 『挟撃』 OP
夜が更け、周囲が静まり返っても、二十四時間態勢のメガルから明かりと物音が途切れることはない。現にメック・トルーパーの事務所内でも、待機当番の幾名かが夜を徹して職務に従事していた。
OAルーム内で、一人真剣な表情でキーを叩き続ける木場の姿があった。
数台の端末が設置された二十畳ほどの空間に、物音とともに外気が流れ込み、木場が目線だけを向けた。
「お、演習の編成やってんのか」
背中越しに桔平の声が聞こえ、木場が手を止める。それから口を真っ直ぐ結び、肺の中のすべての憂いを吐き出した。
そんなことなどまるでおかまいなしに、桔平が朗らかに続けて言う。
「鳳さんにも頼まれてんだろ。あの人はズボラだからな」木場のかたわらへコーヒーの入った紙コップを置き、面白そうにディスプレイを覗き込んだ。「沼やんは別格だな。あとは性格か。奴はアサシンタイプだからな。補佐で滝本をつけるって手もあるな。黒崎は腕はいいがまだ若い。第一バカだ。クソ真面目すぎだが滝本の方がいいだろうな。でもな、うちの方にも一人きたけどよ、真面目なだけじゃ務まんねえだろうな、実際。しの坊くらいつぶしがききゃいいんだけどよ。あとはコマか。沼やんほどじゃないにしろ、メックじゃピカイチだ。まとめるのもうまいしな。南沢と組ましときゃ暴走もねえだろ。そん次はつぶしのきく室戸あたりか。ほえ~、こうやってあらためて見ると、やっぱエスってのは数こそ少ねえが精鋭揃いだったんだな」
桔平が、ふうむ、と顎に手を当てる。
鼻で息をつき、木場がじろりと桔平の顔を見やった。
「おい、桔平。何が言いたい」
するとようやく桔平の表情に変化がおとずれる。
「ん、ああ……」一瞬の思考時間を経て、桔平がそれを口先へと押し出した。「政府がメガルのプロジェクトにガッツリ食い込もうとしているのは知ってるよな」
桔平の顔をまじまじと見つめ、木場が重々しげに頷いてみせた。
「未来型防衛構想という名目の、竜王計画のことだったな」腕組みをし、続ける。「確かパイロット・セクションでは、桐生兄弟が独走状態だと聞いたが」
「おう、独占状態でもある。それにガーディアン計画が追加されたってのも」
「聞いている。……どうした」
「そいつに呼ばれた人間がわかった」一拍置いた。「三雲だ」
「三雲だと……」
「現時点じゃ唯一無二って話だ。プロジェクト自体がまだ手探り状態だから、この先どうなるかわからないがな」
「……」
驚きに目を見開く木場を見据え、やりきれなさを満面に塗りこめた顔を差し向ける桔平。
心もち申し訳なさそうに頷き、先へとつないだ。
「作り話にしてもできすぎだろ。みんな俺達の知っている奴らの名前ばかりだ」真っ直ぐ口もとを結び、隊員達の名前が羅列されたディスプレイを睨みつける。「かつての仲間達が、協力の名のもと、俺達の敵にまわろうとしている」
桔平と同じ表情になり、木場もモニター越しに彼方の影を睨みつけた。
「……。三雲が……」
「ついにきちまったのかもな」ぐっと拳を握りしめた。「カタストロフィってやつが……」
総勢二十名を超える制服姿の隊員達が整列し、上官からの指令を待ち望んでいた。
その中でも一際恰幅のいい三人の偉丈夫が前に出る。
「桐生特佐、頼んだぞ」
上官からの期待に敬礼で応える。
それから後方に控える同じ顔、同じ体格の二人の隊員達とともに、熱いまなざしを差し向けた。
「必ず」