第十七話 『花・前編』 OP
雪を練り込む強風が真横から木々に叩きつけられる極寒の暗い森。
人跡の気配も見られない深みの奥にある小さな山小屋から、かすかな光がこぼれ出ていた。
小屋の天井につり下げられた裸電球が、室内に薄暗い領域を作り上げる。その枠からあぶれたエリアは闇のようだった。
暖炉の薪が炎に焼かれパチパチと音を立てていた。
小屋の中央で軍用パンツと薄地のシャツを一枚着用しただけの偉丈夫がゆるりと顔を上げる。逞しい体躯に似つかわしくないしょぼくれた姿勢で、恨めしげなまなざしを正面へと向けた。
手渡された封筒を破り、中から三枚の写真を取り出すと、表情の変わらないその顔にわずかに色が浮き上がった。
絶望の色が。
「この三人を殺せばいいのだな」
静かにそう呟く。
写真を手渡した男が声もなく頷いてみせた。
感情を押し出すことなく、偉丈夫が顔をそむける。
劣化した電球がふいに照度を落とし、ゆらゆらと闇を揺らした。
強風に振られた小屋が叫び声をあげ震えるのに呼応するように、暖炉の炎が勢いを増した。
炎に照らされ、彼の顔に影が浮き上がる。
憤りにまみれた悲しみの影が。
「信じてもいいのだな……」
「……。約束する」
「……」
「必ず守る」
「承知した」クライアントへ振り返ることもなく、血のように燃える炎だけをじっと見続けていた。「早速メガルへ赴こう」
その瞳に映るものが絶望であることを知る者はいない。
からからに干からびた壁の花が、自らの重みに耐え切れず床へ落ち散らばった。
ピンポーン!
「はい」
チャイムの音に夕季が玄関へと向かう。
ドアを開けると光輔の嬉しそうな顔が飛び込んできた。
手荷物の中に冬期休暇用の課題帳の束を見かける。
「おめでと~ございま~す!」
「……」
無言でドアを閉める夕季。
「ちょっ! 待って、正月早々! あの、これ、お餅。開けて! ねえ開けて!……」