信じてもらえなかった日々
学校や人間関係についての、
実体験を元にした
静かな実話エッセイです。
内容上、
人によっては
重く感じる場面があります。
彼女は、
よく泣いていた。
私は、
彼女をいじめたつもりはなかった。
友人たちも、
彼女と仲良くしようとしていたと思う。
だけど、
少しずつ、
何かが噛み合わなくなっていった。
彼女は、
私と友人が一緒にいることを、
嫌がるようになっていた。
『友達をやめてほしい』
そう言われたこともある。
ある日。
私は先生に呼び出され、
職員室へ向かっていた。
たまたま、
別件で来ていた友人と、
帰り道を少しだけ一緒に歩いた。
ただ、
それだけだった。
だけど彼女は、
私たちを見ると、
教師へ泣きながら訴えた。
『仲間外れにされました』
私は、
ただ驚くことしかできなかった。
説明する前に、
周囲を巻き込んだ空気だけが
広がっていった。
正式に私の言葉を
聞いてもらえる機会などないまま、
少しずつ、
「信じてもらえない」
という感覚を
覚えていった。
放課後。
他クラスの、
たまたま気の合う音楽好きな数人で、
イントロクイズをしていた時のことだった。
隣では、
彼女が小さな声で歌っていた。
一人で歌うくらいなら、
せっかくだし、
みんなで一緒に楽しんだ方がいいと思った。
だから私は、
「みんなで一緒に歌おうよ」
と声をかけた。
その時の彼女は、
楽しそうに笑っているように見えた。
だけど後日。
私が、
『歌を強要した』
ということになっていると聞かされた。
どうしてそんな風に
伝わってしまったのか、
分からなかった。
だけど、
教師も、
クラスメイトも、
私たちの言葉を
信じてはくれなかった。
気づけば私は、
毎日どこか張り詰めながら、
学校へ通うようになっていた。
やがて、
学校の外でも、
色々な噂を耳にするようになった。
彼女の言葉は、
いつの間にか、
周囲の中で
「本当にあった話」
として扱われるようになっていた。
私は、
やっていないことまで、
少しずつ積み重なっていく感覚が、
怖かった。
ある日。
彼女が、
家へ来た時のことだった。
近所では、
放し飼いになっている犬がいた。
その犬が動いた瞬間、
彼女は突然、
大きな声を張り上げた。
私は、
何が起きたのか分からないまま、
その場に立ち尽くしていた。
だけど、
周囲だけが騒がしくなっていった。
その後、
ご近所さんから、
我が家へ苦情が来た。
だけど、
それで終わりではなかった。
彼女は親へ、
さらに話を大きくして伝えていた。
我が家も犬を飼っていたが、
きちんとサークルへ入れていた。
外へ出してなどいない。
それなのに彼女は、
私がその犬を使って、
自分を殺そうとしたのだと、
周囲へ訴えていた。
やがて、
彼女の母親から、
我が家へ電話が来た。
受話器の向こうから向けられる、
強い言葉。
母は、
困ったような表情を浮かべながら、
その話を聞いていた。
父は、
近所まで巻き込む騒ぎになったことへ、
強く怒っていた。
『普通なら、
向こうが菓子折りを持って
謝りに来る話だろ』
そう吐き捨てる父の声を聞きながら、
私は、
もう何が正しくて、
何が間違っているのか、
分からなくなっていた。
だけど、
説明しようとしても、
もう誰も、
私の言葉に、
耳を傾けようとしなかった。
彼女が声をあげるたび、
大人が動き、
味方が増えていく。
向けられる視線は、
どれも冷たかった。
学校の中だけだったはずの空気が、
少しずつ、
家の外へまで広がっていく。
その静かな広がり方が、
怖かった。
外堀を埋められていくような感覚だけが、
ずっと残っていた。
やがて、
友人関係を終わらせることを決めた日の帰り道。
外は、
激しい雨だった。
橋を渡る途中だった。
激しい雨の中、
車がすぐ横を走り抜けていく。
橋の端を歩いていた彼女は、
真ん中あたりで立ち止まり、
雨音を突き破るように叫んだ。
『みんな、
私の味方だから』
その言葉を聞いた時、
私は、
また誰にも信じてもらえなくなる気がして、
怖かった。
家へ帰り、
お母さんに、その話をすると、
『怖いね』
と、
お母さんは静かに言った。
その後、
私は進路を変えた。
環境を変えたかったのかもしれない。
彼女とは違う専攻を選び、
私は新しい場所へ進んだ。
高校へ進学した後、
彼女とのことで悩む人から、
相談を受けたことがある。
『何を言っても、
信じてもらえない』
その言葉を聞いた時、
私は、
中学時代の自分を思い出していた。
他クラスの気の合う子たちと
楽しんだあのイントロクイズさえも、
噂に歪められていった。
私は、
自分のクラスの中で、
たった一人で悩み、
誰にも信じてもらえない孤独の中にいた。
だからこそ、
その苦しさが、
痛いほど分かった。
だけど、
目の前にいるその人には、
一緒に悩み、
支えてくれる友人たちがいた。
私とは違う。
だから私は、
祈るような気持ちで、
月並みな言葉を口にした。
「あなたには、
一緒にいてくれる人がいるから大丈夫」
そう伝えた。
高校三年の終わり頃。
彼女の話していたことの一部に、
事実と異なる部分があったとして、
教師から指導が入ったことを、
後から耳にした。
だけど私は、
どこか複雑だった。
あの頃。
誰かが、
もう少しだけ、
私たちの言葉にも
耳を傾けてくれていたら。
何かは、
変わっていたのだろうか。
今でも時々、
そう考えることがある。
※スマートフォンでの読みやすさを意識して、
改行を多めに入れています。
パソコンやタブレットで読む方は、
少し空白が多く見えるかもしれません。
ごめんなさい。




