間話1「五分の奇跡」
スマホの画面は、まだ熱を持っている気がした。
「……え」
みおは、固まったまま動けなかった。
数秒前。
確かに、見ていた。
森。
村。
知らない世界。
そして――
「……トゥルたん」
あの声。
聞き間違えるはずがない。
何度も、何度も聞いた声。
でも。
「……なんで」
理解が追いつかない。
画面には、すでに
【配信終了】
の文字。
もう、戻らない。
「……嘘」
指が震える。
もう一度、開く。
履歴。
残っている。
確かに――あった。
再生する。
映像が、流れ始める。
村。
人だかり。
中心には――
太った男。
その前で、泣いている家族。
「……これ」
息を呑む。
聞こえてくる声。
『やめてください!』
少女の叫び。
みおの胸が、ぎゅっと締め付けられる。
「……やだ」
見ていられない。
でも、目を逸らせない。
画面の中で――
「やめとけ」
その声が、響いた。
「……っ」
息が止まる。
間違いない。
トゥルースだ。
そこからは、一気だった。
空気が変わる。
村人たちの視線。
そして――
男が、喋り出す。
「……借金を増やして……」
「逆らえないようにして……」
みおの目が、見開かれる。
「……え」
止まらない。
全部、吐き出していく。
「娘は……気に入ったやつを……」
「……最低」
小さく、呟く。
でも同時に。
「……すごい」
あの男は、何もできなかった。
なのに。
トゥルースは――
たった一言で、全部を変えた。
「……これ」
震える声。
「本物、なの……?」
コメント欄が、荒れている。
『やらせだろ』
『演技にしてはリアルすぎる』
『これ海外ロケ?』
『いやCGだろ』
『でも声本人じゃね?』
信じる声。
疑う声。
ぐちゃぐちゃだ。
みおの指が、止まる。
何を打てばいいのか、わからない。
ただ――
画面の中の彼を、見ていた。
「……変わってない」
ぽつりと呟く。
暴いて。
晒して。
でも。
「……助けてる」
そこが、違う。
映像の最後。
「“信じさせる側”になっただけだ」
その言葉。
みおの胸に、強く残る。
そして――
画面が、切れた。
「……五分」
時計を見る。
ちょうど、そのくらい。
偶然とは思えない。
コメントは、まだ荒れている。
『続きは!?』
『これガチならやばい』
『どこだよここ』
『異世界とか言うなよw』
みおは、ゆっくりと画面を閉じた。
そして――
ぎゅっと、スマホを握る。
「……トゥルたん」
今までと同じじゃない。
でも。
「……ちゃんと、いた」
それだけで。
少しだけ、救われた気がした。




