5話 残ったもの
ざわめきは、しばらく続いていた。
「……嘘だろ」
「村長が……」
「そんなこと……」
村人たちの視線は、縛られた村長に向いている。
さっきまで“絶対”だった存在。
それが、地面に転がっている。
「……ほんとに、やってたのかよ」
誰かが呟く。
空気が、少しずつ変わっていく。
疑いから、確信へ。
そして――
怒りへ。
「ふざけんな……!」
「俺たちを……!」
感情が、一気に噴き出す。
その中心で。
俺は、一歩引いて立っていた。
「……終わった、か」
スキルは切れている。
コメントも、見えない。
さっきまでの“あの感覚”は、もうない。
なのに――
「……あれ?」
妙な違和感。
視線。
さっきとは違う。
「……あんた」
声をかけられる。
振り向くと、村人の一人が立っていた。
「さっきの……」
言葉を選ぶように、少し迷って。
「……助かった」
小さく、頭を下げた。
「……」
思わず、言葉に詰まる。
さっきまでの空気なら、ありえない。
名声値は、0のはずだ。
なのに。
「ありがとう……!」
別の村人も、声を上げる。
「本当に……」
一人、また一人と。
頭を下げてくる。
「……なるほどな」
小さく呟く。
完全にゼロ、じゃない。
さっきの行動が、“残ってる”。
信用は、積み上がる。
女神の言葉が、頭をよぎる。
「……悪くない」
「……あの」
控えめな声。
振り向く。
あの娘だった。
まだ少し震えている。
でも。
まっすぐ、こっちを見ていた。
「助けてくれて……ありがとうございました」
深く、頭を下げる。
「……気にすんな」
短く返す。
「でも……」
娘は顔を上げる。
その目は、さっきまでと違っていた。
恐怖じゃない。
――憧れ。
「すごかったです……」
「まるで……」
少し迷って。
「……王様みたいで」
「……は?」
思わず間の抜けた声が出る。
王様。
さっきの俺が?
「そんな大したもんじゃねぇよ」
苦笑する。
「ただの配信者だ」
「……はい!」
なぜか、嬉しそうに頷かれた。
……なんだこれ。
「おい」
低い声。
振り向くと――
ダグが立っていた。
腕を組み、じっとこちらを見ている。
「さっきの、何だ」
「何って?」
「空気が変わった」
「全員、お前の話を聞いてた」
鋭い視線。
「……普通じゃねぇ」
「……まあな」
否定はしない。
どう説明するか、一瞬考えて――
「ちょっとした“特技”だ」
そう誤魔化す。
ダグは、しばらく黙っていた。
そして。
「……そうか」
それ以上は、聞かなかった。
「で」
顎で村の奥を示す。
「このあとどうする」
「どうするって?」
「ここに残るか、出るかだ」
「村長はいなくなる」
「しばらくはゴタゴタするぞ」
……まあ、そうなるか。
「……どうするかな」
空を見上げる。
異世界。
来たばっかり。
何もない。
でも――
「……悪くないスタートだ」
小さく呟く。
その時。
ぐぅぅ……
腹が鳴った。
「……」
現実は厳しい。
「……飯、いるか?」
ダグが、呆れたように言った。
「村の連中も礼くらいはするだろ」
「……助かる」
素直に頷く。
こうして。
俺の異世界最初の一日は、
少しだけ――
まともな形で、続いていくことになった。




