4話 五分間の王
荷車は、ゆっくりと進んでいた。
ガタガタと揺れる振動。
単調な音が、妙に心地いい。
「……で、あんたどっから来たんだ」
前を向いたまま、男が聞いてくる。
「遠いとこだよ」
適当に返す。
「名前はトゥルース、だっけか」
「ああ」
「俺はダグだ」
短いやり取り。
それ以上は、特に会話もない。
「もうすぐ村だ」
しばらくして、ダグが言った。
前方に、小さな集落が見えてくる。
木の柵。
簡素な家々。
典型的な――異世界の村。
荷車が止まる。
「ここでいい」
降りる。
土を踏みしめる。
「助かった」
「気にすんな」
ダグが手綱を引こうとした、その時。
「――やめてください!」
女の声。
悲鳴に近い。
振り向く。
村の奥。
人だかり。
「……なんだ?」
ダグが眉をひそめる。
「……行くぞ」
気づけば、足が動いていた。
人だ
中心にいたのは――
太った男。
高そうな服。
いかにも“権力者”。
その前で土下座している夫婦。
その後ろで震えている娘。
「お願いします……それだけは……!」
父親が叫ぶ。
だが――
「うるさいなぁ」
男は、面倒くさそうに言った。
「食料、欲しいんだろ?」
「なら、対価は払え」
視線が、娘に向く。
「その娘、寄越せばいい」
空気が凍る。
「俺の妻にしてやるって言ってんだ」
「ありがたい話だろ?」
誰も、何も言わない。
「村長様に逆らうな」
小さな声。
……なるほど。
「嫌です……!」
娘が震えながら言う。
「お願いです……!」
「聞こえねぇなぁ」
村長が近づく。
その手が伸びる――
「やめとけ」
気づけば、声が出ていた。
全員の視線が、こっちに向く。
「……誰だお前」
「部外者だ」
「なら口出すな」
冷たい一言。
「これは村の問題だ」
……だろうな。
周囲の視線。
警戒。
拒絶。
無関心。
――名声値0
頭に浮かぶ。
「……普通に言っても無駄か」
なら。
「……使う」
意識を向ける。
――スキル:配信者
発動。
その瞬間――
残り時間 05:00
そして。
視界の端に、文字が流れた。
『は???』
『どここれ』
『異世界じゃね?』
『トゥルたん復活してる!?』
『演出えぐすぎw』
「……は?」
思わず声が漏れる。
『あのデブ誰?』
『絶対悪役で草』
『顔がもうアウト』
『娘かわいそうなんだが』
……コメント?
「おい、今の――」
誰も反応しない。
見えてるのは、俺だけか。
『トゥルたんいけ』
『それ絶対黒だろ』
『暴け暴け』
……なるほどな。
「……いいね」
小さく呟く。
一歩、前に出る。
空気が変わる。
「今の話、もう一回言え」
声が、通る。
全員が、こちらを見る。
『圧つよw』
『きたこれ』
『無双タイム』
「……っ」
村長の顔が強張る。
「食料と引き換えに、娘を差し出せって言ったんだろ?」
静かに言う。
「……そ、それがどうした!」
余裕が消えている。
「それ、正当か?」
「契約だ!」
「こいつらが望んだことだ!」
『嘘くさw』
『絶対違う』
『詰めろ詰めろ』
「……嘘だな」
その一言で。
空気が、完全に変わった。
残り時間 03:41
「言えよ」
一歩詰める。
「本当はどうなんだ?」
村長の口が、震える。
「……俺は……」
『きた』
『しゃべるぞ』
『暴露タイム』
「……借金を増やして……」
「逆らえないようにして……」
ざわめき。
「それに……」
「娘は……気に入ったやつを……」
『うわ』
『クズ確定』
『終わりだろこれ』
沈黙。
「……最低だな」
残り時間 01:52
「ダグ」
「憲兵いるか?」
「あ、ああ……町に……」
「呼べ」
短く言う。
『判断早い』
『有能』
『さすトゥル』
村人たちが動き出す。
誰も、逆らわない。
残り時間 00:27
村長は崩れ落ちていた。
「な、なんで……」
理解できない顔。
「……さあな」
「ただ――」
残り時間 00:03
「“信じさせる側”になっただけだ」
残り時間 00:00
――途切れる。
一瞬で。
コメントも、消えた。
空気が戻る。
「……あれ?」
誰かが呟く。
でも。
もう遅い。
流れは決まっている。
村長は縛られ、
村人は動き、
場は完全に変わった。
「……お前」
ダグが呟く。
「何者だ?」
少しだけ考える。
「ただの――」
さっきのコメントが、頭をよぎる。
「配信者だよ」
風が吹く。
さっきまで重かった空気が、
少しだけ軽くなっていた。
遠くで、誰かが泣いていた。
……多分、安堵だ。
「……悪くないな」
小さく、呟いた。




