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41話 牢屋

石の床に、音が響く。




鉄の軋みと共に扉が開く。



「入れ」




背中を押される。


トゥルースはよろけずに入った。




すぐ後ろで――


鉄格子が閉まる。




ガン、と鈍い音。




「そこで大人しくしてろ」




足音が遠ざかる。




静かになる。




トゥルースは軽く周囲を見る。




石壁。


湿気。


臭い。




「……最悪だな」




横でダグが吐き捨てる。


「だから言っただろ」




「“軽く聞く”でこれだ」




トゥルースは答えない。




視線を奥へ流す。




人影が一つ。




壁にもたれて座っている。




こちらを見ていた。




「……新入りか」




低い声。




年は五十前後。


髭が伸びている。


だが――


目は死んでいない。




トゥルースは近づく。




「ここ、長いのか」




男は少しだけ笑う。


「さあな」




「時間の感覚は、とっくに無い」




ダグが小さく舌打ちする。


「最悪だ……」




トゥルースは男の前で止まる。




「何やった」




直球。




男は一瞬だけ黙る。




「……言った」




短い。




「何を」




「同じことだ」




男の視線が、トゥルースを見る。




「上納、だろ?」




一拍。




トゥルースは、わずかに口元を上げる。




「話が早いな」




男は肩をすくめる。


「ここに来る奴は、大体それだ」




「気づくか、口に出すかの違いだけだがな」




ダグが顔をしかめる。


「……マジでやってんのかよ」




男は鼻で笑う。


「見たんだろ?」


「隠す気もねぇ」




沈黙。




トゥルースは一歩踏み込む。




「いつからだ」




男の目が、わずかに細くなる。




「……二ヶ月前だ」




「偉いお貴族様が来てからだ」




ダグが顔を上げる。


「貴族?」




「ああ、男爵だ」




男はゆっくりと頷く。




「それまでは、こんな街じゃなかった」




「普通だった」




「少なくとも――」




「兵士が民から金を巻き上げるような場所じゃなかった」




トゥルースは黙って聞く。




男の視線が、少しだけ遠くを見る。




「最初は、変な噂だった」




「“羽振りがいい”ってな」




「兵士が妙に金を持ってる」




「飲んで、使って、また増える」




一拍。




「おかしいと思った」




「だから調べた」




ダグがぼそっと言う。


「それでここか」




男は小さく笑う。


「まあな」




「途中で気づいたよ」




「触っちゃいけないやつだってな」




トゥルースが聞く。


「何を見た」




男は少しだけ間を置く。




そして――


低く言った。




「目だ」




「……目?」




「ああ」




「兵士の目が、変わってた」




沈黙。




「焦点が合ってねぇ」




「なのに、動きは揃ってる」




「同じことをする」




「同じように金を取る」




ダグが顔をしかめる。


「気味悪ぃな……」




男は頷く。




「止めようとした」




「何人かでな」




一拍。




「全員、ここだ」




静かに言う。




空気が重くなる。




トゥルースは変わらない。




「名前は」




男は一瞬だけ驚いた顔をする。




「……ガレスだ」




「元兵士長」




ダグが目を見開く。


「は?」




「兵士長がこんなとこにいるのかよ」




ガレスは肩をすくめる。


「“元”だ」




「都合が悪くなったら、こうなる」




トゥルースは小さく頷く。




「なるほどな」




一拍。




「上は、繋がってるな」




ガレスの目が鋭くなる。




「……ああ」




「間違いなくな」




沈黙。




トゥルースは壁にもたれる。




軽く息を吐く。




「で?」




「どこまで分かってる」




ガレスがこちらを見る。




トゥルースの目は変わらない。




静かだ。




「まだ浅い」




「だが――」




一瞬、笑う。




「繋がりは見えた」




ダグが呆れたように言う。


「この状況でそれかよ……」




トゥルースは答えない。




視線は上。




天井。




(二ヶ月)




(男爵)




(兵士の異常)




点が、ゆっくりと並ぶ。




まだ足りない。




だが――




「……悪くない」




小さく呟く。




ガレスが聞く。


「何がだ」




トゥルースは視線を戻す。




「全部だ」




一拍。




「分かりやすい」




ガレスがわずかに笑う。




「……変な奴だな」




トゥルースは肩をすくめる。




「よく言われる」




沈黙。




外で足音がする。




誰かが近づいてくる。




トゥルースの目が、わずかに細くなる。




「次だな」




小さく呟く。



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