27話 中間の人間
通りを進む男の背中を追う。
距離は一定。
足取りに迷いはない。
周囲への視線も鋭い。
「……さっきのより面倒そうだな」
ダグが小さく呟く。
「ああ」
トゥルースは短く答えた。
「現場を回してる側だ」
男は数軒の店を確認し、そのまま路地へ入る。
人通りが少しだけ減る。
だが、完全な裏ではない。
「……ここでいい」
トゥルースが歩幅を上げる。
距離を詰める。
「おい」
声をかけた。
男が止まる。
ゆっくり振り返る。
視線が鋭い。
一瞬でこちらを測る目。
「……誰だ」
低い声。
警戒は強い。
トゥルースは依頼書を軽く見せる。
「ギルドだ」
「商取引トラブルの調査」
男の目がわずかに動く。
だがすぐに戻る。
「……それで?」
「お前に用だ」
はっきり言い切る。
数秒の沈黙。
男は腕を組む。
「答える義理はないな」
余裕を崩さない。
「だろうな」
トゥルースもあっさり頷く。
否定しない。
「じゃあ確認だけだ」
一歩だけ距離を詰める。
「市場、揃いすぎてる」
男の眉が、ほんのわずかに動く。
「量、質、言い訳」
「全部同じラインだ」
トゥルースは淡々と続ける。
「偶然じゃ無理だ」
「知らないな」
男は即答する。
「現場判断だ」
淀みがない。
トゥルースは小さく息を吐く。
(やっぱり固いな)
ここまでは想定内。
「……なるほど」
軽く頷く。
そこで――
一瞬、間を置く。
(ここだな)
意識を切り替える。
スキル再開。
【残り時間 02:11】
視界の端に表示。
コメントが流れ出す。
『あ、また始まった?』
『さっきの続き?』
『なんか空気ヤバくない?』
トゥルースは一歩踏み込む。
距離を詰める。
逃げ場を削る。
「じゃあ、これはどうだ」
声を少しだけ落とす。
「お前が決めてるのか」
男の反応が一瞬遅れる。
「……違う」
反射で出る言葉。
トゥルースは即座に頷く。
「そうか」
それでいい。
「じゃあ次だ」
間を与えない。
「誰が決めてる」
男の呼吸が、わずかに乱れる。
「知らないな」
言う。
だが――
遅い。
【01:34】
「無理だな」
トゥルースが静かに言う。
「全員、同じズレ方してる」
「“現場判断”で揃うレベルじゃない」
一歩、さらに踏み込む。
「基準がある」
「お前、それを流してる」
空気が止まる。
男の視線が逸れる。
ほんの一瞬。
『あ、今』
『絶対なんかある』
『分かりやすい』
トゥルースは追わない。
あえて間を取る。
逃げ道を残す。
「別に責めてるわけじゃない」
声を少しだけ緩める。
「合理的だ」
「利益も出る」
「現場も回る」
男の視線が戻る。
揺れながら。
「でもな」
トゥルースは続ける。
「もう崩れてる」
短く言い切る。
「揉め事が増えてる」
「ギルドも動いた」
「このまま行けば――」
一拍。
「全部、お前の責任になる」
男の顔色が変わる。
はっきりと。
【00:52】
「……俺は関係ない」
絞り出す。
だが弱い。
「じゃあいい」
トゥルースはあっさり引く。
「その場合、全部お前だ」
沈黙。
逃げ場はある。
だが、重い。
「でも違うなら」
視線を固定する。
「今言えばいい」
『これきつい』
『でも逃げ道あるの上手い』
『言うしかなくね?』
【00:21】
男の呼吸が乱れる。
迷い。
揺れ。
そして――
「……俺は」
小さく吐き出す。
「決めてない」
トゥルースは即座に繋ぐ。
「上がいるな」
「誰だ」
「……支配人だ」
吐き出すように言う。
「グランツの支配人」
【00:06】
トゥルースは小さく頷いた。
「十分だ」
スキルを切る。
表示が消える。
男はその場で肩を落とす。
「……くそ」
力なく呟く。
トゥルースは背を向ける。
「行くぞ」
「ああ」
ダグが頷く。
通りへ戻る。
人のざわめき。
いつも通りの景色。
だが――
次は違う。
「支配人、か」
トゥルースが呟く。
「ようやく本体だな」




