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25話 配信者

ギルドを出ると、昼の光がそのまま差し込んできた。


さっきまでの喧騒が、少し遠くに感じる。


「……どうする」


隣を歩きながら、ダグが低く聞く。


「今の、泳がせたよな」


「ああ」


トゥルースは短く答えた。


「崩れてはいない。だが、揺れてる」


「……分かるのか」


「分かる」


わずかに口元を緩める。


「慣れてる」




ギルドから出てきた男が、足早に通りへ出る。


視線は前だけ。振り返らない。


だがその歩き方は、明らかに落ち着いていなかった。


「急いでるな」


ダグが呟く。


「焦ってる」


トゥルースはそう返しながら、自然に歩調を合わせた。


距離を取り、目立たないように追う。


人混みに紛れ、気配を消すように。




やがて男は裏通りへ入った。


人通りが一気に減る。


音も、気配も、少しだけ遠くなる。


「……いい場所だな」


ダグが小さく言う。


「ああ」


トゥルースは歩幅をわずかに上げ、距離を詰めた。


そして、声をかける。


「おい」


男の足が止まる。


ゆっくりと振り返った顔には、苛立ちが浮かんでいた。


「……なんだよ」


その声は強いが、どこか硬い。




「少し話そうぜ」


トゥルースは穏やかに言った。


「もう話しただろ」


男は吐き捨てる。


「足りねぇ」


一歩、距離を詰める。


「別件だ」


「……は?」


眉が寄る。


警戒が強まる。




「さっきのは確認だ」


トゥルースは淡々と続けた。


「今からが本番」


その一言で、空気が変わる。


静かに、しかし確実に。


張り詰めていく。




意識を切り替える。


スキル発動。


視界の端に、淡く数字が浮かぶ。


【残り時間 05:00】


同時に、コメントが流れ始める。


『きたw』

『また始まった』

『この流れ好き』


視線は動かさない。


見るのは、目の前の男だけ。




「単刀直入に聞く」


トゥルースは一歩近づき、相手の目をまっすぐ捉えた。


「お前、一人でやってないな」


男の表情が一瞬だけ固まる。


「……は?」


すぐに返す。


だが、その間は完全には消せていなかった。


「何の話だよ」


「誤魔化しの話だ」


トゥルースは淡々と続ける。


「量、質、言い訳。全部揃ってる」


「偶然じゃ無理だ」


男の視線が、わずかに泳いだ。


ほんの一瞬。


それだけで十分だった。




「知らねぇな」


男は強く言い切る。


「俺はちゃんとやってる」


「そうか」


トゥルースはあっさり頷いた。


否定しない。


責めもしない。


ただ、そのまま受け取る。




一歩、さらに距離を詰める。


声を少しだけ落とす。


「じゃあ聞き方を変える」


逃げ道を残すように、言葉を選ぶ。


「“指示された”か?」


男の喉が、わずかに動く。


沈黙。




「違うなら、それでいい」


トゥルースは続けた。


「その場合――全部お前の責任になる」


空気が重く沈む。


言葉は静かだが、重さだけが残る。




コメントが流れる。


『うわ、これキツい』

『逃げ道潰してる』

『でも選ばせてるのが上手い』




「……なんだよ、それ」


男が低く返す。


「事実だろ」


トゥルースは即答した。


「一人でやったなら、全部お前だ」


「でも違うなら――話は変わる」


わずかに間を置く。


視線を外さない。




男は答えない。


答えられない。




「知らねぇって言ってるだろ」


絞り出すように言う。


だが、その声にはさっきまでの強さがない。


「へぇ」


トゥルースは小さく笑った。


「じゃあもう一つ」


少しだけ角度を変える。


「仕入れ先」


その言葉に、男の肩がぴくりと動いた。


「グランツ商会」


名前を出す。




完全に止まった。


呼吸が一瞬抜ける。


「……なんでそれを」


小さく漏れる。




「やっぱりな」


トゥルースは静かに頷いた。


確信に変わる。




「関係ない」


男はすぐに言い直す。


「ただの取引先だ」


「だろうな」


トゥルースは否定しない。


むしろ肯定する。


「だからこそだ」


一歩、さらに踏み込む。


「その“ただの取引先”が、全体を揃えてる」




男の呼吸が浅くなる。


目が泳ぐ。


言葉が出ない。




「安心しろ」


トゥルースは声を少しだけ緩めた。


圧を落とす。


「全部話せとは言わねぇ」


男が、わずかに顔を上げる。




「ただ、一つだけだ」


指を一本立てる。


「誰に言われた」


沈黙。


逃げ場はある。


だが、完全ではない。




コメントが流れる。


『これもう無理だろ』

『言うしかないやつ』

『でも優しい聞き方してるのがエグい』




男の口が開く。


閉じる。


言葉にならない。




「言わなくてもいい」


トゥルースが先に言った。


わざとだ。


逃げ道を残す。


「その代わり、次は“上”に聞く」


一拍。


「お前抜きでな」




「っ……!」


男の顔色が変わる。


完全に。




「どっちがいい?」


静かに問いかける。


「今ここで終わるか」


「それとも――全部崩れるか」


わずかに笑う。


選ばせる。




沈黙。


数秒。


長く感じる時間。




「……言えば」


男が、かすれた声で言う。


「俺はどうなる」


ようやく出た言葉。




「軽くなる」


トゥルースは即答した。


「全部被るよりマシだろ」


事実だけを置く。




男の視線が落ちる。


揺れる。


迷う。


そして――


「……俺は」


小さく吐き出す。


「言われただけだ」




ダグが小さく息を吐いた。


「来たな」




「誰に」


トゥルースが短く続ける。


逃がさない。




男は目を閉じる。


覚悟を決めるように。


「……グランツの、担当だ」


絞り出すように言う。


「名前は……」




「そこまででいい」


トゥルースが遮った。


「後はこっちでやる」




スキルを切る。


視界の表示が消える。


【残り時間 02:11】




男はその場に崩れるように座り込んだ。


「……くそ」


力なく呟く。




トゥルースは振り返る。


「行くぞ」


「ああ」


ダグが頷く。




通りへ戻る。


人の流れが戻ってくる。


だが、トゥルースの視線はその先にある。


「グランツ商会」


小さく呟く。


「本丸だ」


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