21話 小さな誤魔化し
店主の笑みが、ほんの一瞬だけ揺れた。
「……何のことだい?」
とぼける。
自然だ。
だが――
「上手いよ」
トゥルースは肩をすくめる。
「普通は気づかねぇ」
「……」
周囲の客が、少しだけこちらを見る。
ダグが小声で言う。
「おい、やるのか?」
「軽くだけな」
視線は外さない。
店主の目を、まっすぐ見る。
「値段は正しい」
果物を一つ手に取る。
重さを確かめるように軽く持ち上げる。
「でも量が違う」
「……は?」
店主が眉をひそめる。
「何言ってんだ」
「単位の問題だろ」
さらっと言う。
「一束、って言ってるけど」
視線を横に流す。
他の店。
同じ果物。
同じ“束”。
「他より少ない」
ざわり、と空気が動く。
近くの客が、隣の店と見比べる。
「……気のせいだろ」
店主が笑う。
だが、少しだけ硬い。
「そうか?」
トゥルースはもう一度果物を見る。
「じゃあ数えようか」
「……」
一瞬の沈黙。
「ほら」
隣の店の束を指す。
「そっちは十個」
自分の手元を軽く持ち上げる。
「で、こっちは?」
店主の喉が動く。
客の一人が口を開く。
「……九個、じゃねぇか?」
「いや、八だな」
別の客が言う。
ざわざわと広がる。
「おかしいだろ」
「同じ値段だぞ?」
「マジかよ」
空気が変わる。
完全に“疑い”に傾いた。
ダグが小さく息を吐く。
「うわ、始まったな」
「まだだ」
トゥルースは小さく呟く。
そして――
ほんの一瞬だけ、意識を切り替える。
スキル発動。
視界の端に、数字。
【残り時間 04:59】
コメントが流れる。
『なんか始まったw』
『これいつもの流れ?』
『店主やばくね?』
無視する。
視線は一つ。
目の前の男だけ。
「別にさ」
トゥルースは穏やかに言う。
「詐欺ってほどじゃねぇ」
店主の肩が、わずかに揺れる。
「ちょっと少ないだけ」
「……」
「でもな」
一歩だけ距離を詰める。
声を落とす。
「それ、わざとだろ」
店主の呼吸が止まる。
「違うって言うなら」
逃げ道を残すように、言葉を置く。
「今ここで揃えればいい」
「……」
沈黙。
客の視線が突き刺さる。
店主は笑おうとする。
だが――
うまくいかない。
「……その、だな」
言葉が詰まる。
「たまたま、だ」
「へぇ」
トゥルースは頷く。
「じゃあ運が悪かったな」
軽く笑う。
「今日は“全部バレる日”だ」
「っ……」
店主の顔色が変わる。
コメントが流れる。
『圧www』
『顔引きつってるぞw』
『これ逃げられないやつ』
「……わかったよ」
店主が小さく吐き出す。
「悪かった」
周囲がざわめく。
「少しだけ減らしてた」
「全部じゃない」
「気づく奴なんて――」
言いかけて、止まる。
トゥルースと目が合う。
逸らした。
「……すまん」
完全に崩れた。
「ほらな」
トゥルースは肩をすくめる。
スキルを切る。
【残り時間 03:12】
「大したことじゃねぇ」
周囲を見る。
「でも、信用は削れる」
客たちが頷く。
「次から気をつけろ」
「……ああ」
店主は力なく答える。
「値段はそのままでもいい」
トゥルースは続ける。
「その代わり、量は揃えろ」
「それだけでいい」
店主は何度も頷く。
場の空気が、少しだけ和らぐ。
「……終わりか」
ダグが苦笑する。
「軽めだったな」
「軽めでいいんだよ」
トゥルースは市場を見渡す。
「こういうのは」
一歩、歩き出す。
「“小さいうちに止める”のが一番効く」
ダグが肩をすくめる。
「怖ぇな、お前」
「褒め言葉だな」
軽く返す。
そのまま人混みへ戻る。
だが――
「……」
トゥルースの視線が、少しだけ動く。
市場の奥。
別の場所。
別のやり取り。
今のとは違う。
もっと“意図的”な違和感。
「どうした」
ダグが気づく。
トゥルースは、わずかに笑った。
「いや」
短く答える。
「次があるな」
市場の奥。
騒がしさの中に、別の気配が混じっていた。




