18話 貴族の嘘(解決編)
視界に、文字が流れる。
『また来た』
『続きだ』
『屋敷編きたな』
『誰が犯人だ』
『眼鏡あやしくね?』
残り時間――5:00
「……さて」
軽く息を吐く。
全員を見る。
バルド。ミラ。ゲイン。ロイド。
そして、依頼人。
「一つ確認だ」
ゆっくり口を開く。
「この中に、“やってないやつ”はいるか?」
当然、誰も答えない。
だが――
わずかに空気が揺れる。
息が、浅くなる。
「だよな」
頷く。
「じゃあ質問変える」
一歩前に出る。
「“どこから金を抜いた?”」
空気が凍る。
誰も動かない。
動けない。
「……何を」
ロイドが口を開く。
その声は冷静――のはずだった。
だが。
ほんのわずかに、掠れている。
「話を飛ばしすぎでは?」
「飛ばしてねぇよ」
即答する。
「もうそこだろ」
視線を外さない。
ロイドの指先が、微かに震えた。
「帳簿は綺麗すぎる」
「ミスじゃない」
「意図的だ」
言葉が、まっすぐ落ちる。
逃げ場がない。
「なら――」
帳簿を叩く。
「操作できるやつは限られる」
沈黙。
誰も反論しない。
いや――
“できない”。
「帳簿係」
視線を向ける。
「ロイド、お前だな」
数秒の沈黙。
ロイドの喉が、わずかに動く。
「……証拠は?」
同じ言葉。
だが今度は――
自分でも、弱いとわかっている声だった。
「ない」
あっさり返す。
その瞬間。
ロイドの眉が、わずかに歪む。
まるで。
自分の言葉に、納得できていないように。
「でも」
少しだけ笑う。
「お前、さっきから一回も“驚いてない”」
ロイドの呼吸が、一瞬止まる。
「普通はな」
ゆっくりと言う。
「金が消えてるって話聞いたら、もう少し動揺する」
「……人それぞれでしょう」
返す。
だが。
言葉に力がない。
自分でも、言い訳だとわかっている声。
「そうだな」
頷く。
「でも、お前は“知ってる側”の反応だ」
沈黙。
空気が、じわじわと押し潰してくる。
「……仮に」
ロイドが口を開く。
「私がやっていたとして」
その言葉に、部屋の空気が揺れる。
逃げの言葉。
だが――
逃げきれない。
「どうやって?」
「単独じゃ無理だろ」
その瞬間。
『お?』
『今の言い方』
『確定じゃね?』
『自分で言ったぞ』
口元が上がる。
「そうだな」
小さく言う。
「単独じゃ無理だ」
視線をずらす。
「だろ?」
ゲインを見る。
「っ……!」
肩が大きく跳ねる。
「……なんの話だ」
否定する。
だが。
声が、明らかに震えている。
「お前」
一歩近づく。
ゲインが一歩下がる。
無意識に。
「帳簿は触らない」
「でも、“運ぶ”ことはできる」
「……」
言葉が出ない。
「金を抜く」
「外に出す」
「役割分担だ」
沈黙。
重い。
息苦しい。
「……証拠は」
ゲインが絞り出す。
だが。
その目はもう――揺れている。
「ねぇよ」
あっさり返す。
「でも」
一歩、さらに踏み込む。
「お前、さっき“全部否定した”」
「それが不自然なんだよ」
「普通は迷う」
「考える」
「でもお前は――」
目を見て言う。
「即答した」
「……っ」
言葉に詰まる。
否定が、出てこない。
頭では否定したいのに。
言葉が、組み立てられない。
「やってるやつほど、迷わない」
静かに言い切る。
「……違う」
小さく否定。
だが。
その声は、完全に崩れていた。
「違う……」
「じゃあ聞く」
畳みかける。
「なんでロイドを見る?」
「……っ!」
ゲインの視線が、勝手に動く。
止められない。
ロイドへ。
一瞬。
それだけで――
「終わりだな」
小さく呟く。
沈黙。
数秒。
そして――
「……はぁ」
ロイドが息を吐いた。
力が抜けたように。
「そこまで見ますか」
諦めた声。
「仕事だからな」
軽く返す。
「……そうだ」
ロイドが認める。
「帳簿は私が操作した」
「金の移動は、彼がやった」
視線がゲインに向く。
ゲインは、もう何も言えない。
「最初は、ほんの少しだった」
「誰も気づかない程度に」
「でも」
苦笑する。
「欲は、止まらない」
「……クズだな」
ぽつりと呟く。
「否定はしません」
あっさり返る。
「……ふざけるな!」
依頼人が怒鳴る。
「どれだけの金だと思っている!」
「理解しています」
ロイドは静かに答える。
「だからこそ、バレる前にやめるつもりでした」
「バレてんだろうが!」
「……そうですね」
目を閉じる。
「終わりです」
観念した。




