17話 貴族の嘘(前編)
部屋の空気は、重かった。
並ぶ視線。
誰も口を開かない。
「……なるほど」
小さく呟く。
「全員、関係者で――全員、無関係って顔だな」
反応はない。
だが、わずかに肩が揺れたやつがいる。
「名前、順番に」
軽く言う。
「確認だけだ」
依頼人が頷く。
「こちらが管理役のバルド」
四十手前の男。
無表情。
「使用人のミラ」
若い女。
視線が落ち着かない。
「同じく使用人のゲイン」
細身の男。
目が泳いでいる。
「帳簿係のロイド」
眼鏡の男。
落ち着いている。
「……以上だ」
「少ないな」
「限られているからな」
「だろうな」
一歩前に出る。
机の上に置かれた帳簿を手に取る。
パラパラとめくる。
「……ふーん」
わかることは少ない。
だが――
「綺麗すぎるな」
ぽつりと呟く。
「は?」
依頼人が反応する。
「何がだ」
「帳簿だよ」
軽く叩く。
「ズレてるくせに、整いすぎてる」
視線が一瞬、揺れる。
「普通さ」
ページを閉じる。
「ミスって、もっと雑に出るだろ」
「これは――」
ゆっくりと見回す。
「“隠してる”ズレ方だ」
沈黙。
誰も否定しない。
「……で」
椅子に軽く腰掛ける。
「誰がやった?」
当然、答えはない。
「まあいい」
肩をすくめる。
「一人ずついこうか」
視線を、最初の男へ向ける。
「バルド、だっけ」
「……そうだ」
「管理役」
「ああ」
「金に触れる立場だな」
「当然だ」
「じゃあ聞く」
少しだけ間を置く。
「最近、困ってることは?」
「……は?」
予想外だったのか、眉をひそめる。
「困ってること、だ」
「別に――」
「ない、は嘘だな」
即座に切る。
空気が揺れる。
「……何が言いたい」
「簡単だ」
軽く笑う。
「余裕あるやつは、こんな顔しねぇ」
バルドの表情がわずかに歪む。
「……次」
視線をずらす。
「ミラ」
びくっと肩が跳ねる。
「は、はい……」
「帳簿、触るか?」
「いえ……直接は……」
「でも、見ることはあるな」
「……はい」
「変だと思ったことは?」
「え……」
言葉に詰まる。
「……ない、です」
「それも嘘だな」
「っ……!」
顔が強張る。
「……なんでわかるんですか」
「顔」
短く答える。
「わかりやすい」
ミラが黙り込む。
「次」
視線を移す。
「ゲイン」
「……はい」
声が小さい。
「お前は?」
「……何がです」
「同じだよ」
「何か気づいたか」
「……いえ」
「それ、本当か?」
「……はい」
一瞬の間。
「……ふーん」
興味なさそうに流す。
だが、目は外さない。
「最後」
「ロイド」
「はい」
落ち着いた声。
「帳簿係、か」
「その通りです」
「一番近いな」
「ええ」
視線がぶつかる。
「……何も問題はありません」
先に言ってきた。
「全部、正確に処理しています」
「へぇ」
少しだけ笑う。
「じゃあ聞く」
ゆっくりと立ち上がる。
「このズレは、何だ?」
帳簿を軽く叩く。
「……それは」
ロイドの目が細くなる。
「現在、調査中で――」
「違うな」
遮る。
「もうわかってる顔だ」
沈黙。
空気が張り詰める。
「……証拠は?」
ロイドが静かに言う。
「あるのですか?」
「ない」
即答する。
「だから困ってる」
「でしたら――」
「でも」
一歩近づく。
「嘘はわかる」
小さく言う。
「それで十分だ」
ロイドの目が、わずかに揺れた。
「……面白いことを言いますね」
「だろ?」
軽く笑う。
部屋の空気が、重くなる。
「……さて」
小さく息を吐く。
ここから先は――
「早い」
視界に、文字が流れる。
『また始まった』
『場所変わってる?』
『屋敷っぽいな』
『今回何だ』
『人多いな』
「……やるか」
小さく呟く。
スキル発動。
残り時間――5:00




