15話 報酬と噂の拡大
ギルドの中は、昨日よりも騒がしかった。
「……増えてるな」
ぼそっと呟く。
視線。
明らかに増えている。
「お前、また何かやったな」
ダグが呆れたように言う。
「仕事しただけだ」
「それが問題なんだよ」
軽く笑う。
カウンターへ向かうと、受付がすぐに気づいた。
「お帰りなさい」
昨日よりも、さらに丁寧だ。
「依頼、終わった」
「報告をお願いします」
簡単に説明する。
途中で何度か驚いた表情を見せながらも、最後まで聞き終えた。
「……確認しました」
一呼吸。
「今回の件ですが、かなり評価が上がっています」
「またか」
「はい。“特別協力者候補”から、一段階上がりました」
「へぇ」
あまり興味はなさそうに返す。
「優先依頼の選定権が一部与えられます」
「選べるのか」
「はい。通常より条件の良いものを」
「いいじゃねぇか」
素直に頷く。
「報酬も上がります」
「最高だな」
受付が少し苦笑する。
「……本当にブレませんね」
「金は裏切らないからな」
「……否定できません」
袋を受け取る。
前より明らかに重い。
「それと」
受付が声を落とす。
「今回の件、“噂”になっています」
「噂?」
「“嘘を暴く男がいる”と」
「そのまんまだな」
「商人の間で広がっています」
「面倒だな」
正直な感想。
だが――
「悪い話ばかりではありません」
「依頼が増える?」
「はい。指名も」
「それはいいな」
軽く笑う。
「ただし」
受付の目が少し真剣になる。
「目立ちます」
「……だろうな」
「中には、よく思わない人もいます」
「嘘ついてる側か」
「……おそらく」
「なら関係ねぇな」
あっさりと言う。
「暴かれるのが嫌なら、やらなきゃいい」
受付は一瞬言葉に詰まる。
「……その通りですが」
「現実は、そう単純ではありません」
「だろうな」
それ以上は聞かない。
「次の依頼は?」
「いくつかありますが……」
紙が並べられる。
討伐。
護衛。
調査。
その中で、一つだけ目を引くものがあった。
「……これ」
受付の表情が変わる。
「それは……」
「何だ?」
「貴族関係です」
「へぇ」
少しだけ興味が出る。
「内容は?」
「“内部不正の疑い”」
「……面白そうだな」
自然と笑う。
ダグが横でため息をつく。
「やめとけ」
「なんでだよ」
「面倒がでかい」
「報酬は?」
受付が静かに答える。
「金貨、一枚です」
一瞬、間が空く。
「……受ける」
即答だった。
ダグが頭を抱える。
「だと思ったよ」
「いいだろ」
肩をすくめる。
「でかい案件は嫌いじゃない」
受付が少しだけ安堵したように息を吐く。
「正式受注でよろしいですか?」
「ああ」
依頼書を受け取る。
「詳細は現地で、か」
「はい。紹介状もお渡しします」
「助かる」
カウンターを離れる。
周囲の視線が、さらに強くなる。
「……完全に有名人だな」
ダグが呟く。
「困るか?」
「いや」
少し考えてから答える。
「使える」
「……そうかよ」
外に出る。
空は変わらず青い。
「貴族、ね」
ぽつりと呟く。
「やばそうだな」
でも。
「だからいい」
口元が歪む。
「嘘があるなら――」
依頼書を軽く叩く。
「暴くだけだ」
風が吹く。
町のざわめきが遠ざかる。
その先にあるのは――
今までより、少しだけ大きな世界。
そして。
もっと面倒で、もっと面白い“嘘”。




