間話3「コメント欄は止まらない」
暗い部屋。
カーテンは閉じたまま。
机の上には、つけっぱなしのスマホ。
画面には、配信サイトのトップ。
更新は――ない。
「……また、来なかった」
小さく呟く。
少女は、膝を抱えて座っていた。
名前は――まだ出さない。
ただの一人の視聴者。
でも。
彼女にとっては、“全部”だった。
トゥルたん。
暴露系配信者。
でも、ただの暴露じゃない。
誰も触れない“本当”を、当たり前みたいに暴く人。
コメントを拾う。
ちゃんと見てる。
自分の名前も、呼ばれたことがある。
たった一度だけ。
それだけで。
「……嬉しかったな」
ぽつりと呟く。
現実は、つまらない。
学校も。
人も。
全部。
でも、あの配信だけは違った。
だから――
「なんで……」
画面を見る。
配信履歴。
最後の更新は、あの日。
あのあと、音沙汰がなかった。
――そして、昨日。
「……また、来たんだよね」
指が震える。
再生履歴を開く。
そこにあるのは――
見たことのない映像。
石の道。
知らない服の人たち。
まるで、ゲームみたいな世界。
でも。
「……あれ、嘘じゃない」
直感だった。
理由はない。
でも、わかる。
あの人は――
「嘘、つかない」
小さく呟く。
動画を再生する。
五分。
いつもより短い。
でも、確かにそこにいた。
トゥルたんが。
コメント欄を開く。
『これ何?ロケ?』
『新企画?』
『いやリアルすぎるだろ』
『海外?』
『CGじゃなくね?』
流れ続けるコメント。
止まらない。
『てかなんで5分で終わるの?』
『毎回短くね?』
『切られてる?』
『仕様?』
『意味わからん』
「……だよね」
小さく呟く。
わからないのは、みんな同じ。
でも。
違うのは――
「……本物、だよね」
画面に触れる。
信じてる。
理由はない。
でも、信じてる。
新しい動画が投稿される。
「……!」
すぐに開く。
再生。
市場。
知らない人たち。
でも、その中に――
いた。
トゥルたん。
「……よかった」
思わず、声が漏れる。
生きてる。
ちゃんと。
そこにいる。
コメント欄が爆発する。
『また来た!』
『昨日の続きっぽい?』
『検証してる?』
『何してんのこれ』
『てかやっぱ短い』
少女は、コメントを打ち込む。
震える指で。
『トゥルたん……?』
流れていく。
すぐに埋もれる。
でも――
一度でいい。
気づいてほしい。
また。
名前を呼んでほしい。
映像が進む。
荷が消える。
男が現れる。
意味のわからない現象。
「……なに、これ」
理解できない。
でも。
目が離せない。
コメントも荒れている。
『消えた!?』
『今の何!?』
『トリックじゃなくね?』
『怖いんだけど』
『いや演出だろ』
終わる。
また、五分。
配信終了。
「……はやい」
小さく呟く。
でも。
「でも……」
笑う。
少しだけ。
「また、来た」
それだけでいい。
スマホを胸に抱く。
「……トゥルたん」
名前を呼ぶ。
小さく。
「どこにいるの?」
返事はない。
でも。
きっと。
「……また、来るよね」
信じてる。
あの人は、戻ってくる。
何度でも。
真実を持って。
そして――
コメント欄は、今日も止まらない。




