14話 消える荷の謎(解決編)
翌日。
同じ場所。
「来たか」
依頼人の男が、昨日と同じ場所に立っていた。
「約束だからな」
軽く返す。
ダグも後ろで腕を組んでいる。
「で、わかったのか」
男が詰め寄る。
「まだ全部じゃない」
正直に言う。
「でも、当たりはつけた」
「本当か……?」
「たぶんな」
曖昧に返す。
完全には見えていない。
だが――
「確かめる」
そのために来た。
周囲を見る。
道。荷車。林。
昨日と変わらない。
「……もう一回、同じ状況を作れるか?」
「どういうことだ」
「荷を運んでくれ」
「は?」
「同じように」
男は一瞬迷うが、やがて頷いた。
「……わかった」
荷車に箱を乗せる。
ゆっくりと進む。
「そこまででいい」
昨日と同じ位置。
車輪の跡が途切れる場所。
「……ここだな」
静かに言う。
何も起きない。
当然だ。
「……じゃあ」
小さく息を吐く。
視界に、文字が流れる。
『きた』
『また始まった』
『昨日の続き?』
『検証してるっぽい』
『場所どこだよ』
口元がわずかに上がる。
スキル発動。
残り時間――5:00
「そのまま動くな」
男を止める。
空気が、張り詰める。
じっと、見る。
地面。
荷車。
空間。
「……来るか?」
数秒。
何も――
いや。
一瞬だけ、景色が“揺れた”。
「……今だ」
踏み込む。
「何もしてないのに、なんで荷が消えた?」
男が反射的に答える。
「俺じゃない!本当に知らない!気づいたら消えて――」
「違う」
遮る。
「お前じゃない」
視線をずらす。
林の方。
「そっちだ」
「……っ」
草の陰。
誰もいない。
だが――
「出てこい」
静かに言う。
「見えてるぞ」
数秒の沈黙。
そして――
「……はぁ」
ため息と共に、人影が現れた。
「バレるかよ、普通……」
フードを被った男。
「リック……!」
依頼人が叫ぶ。
「逃げたんじゃなかったのか!」
「逃げてたよ」
男は肩をすくめる。
「でも、仕事は続けてた」
「仕事だと……?」
「簡単だよ」
にやりと笑う。
「ここ、“バグる”んだよ」
「バグ?」
「一瞬だけ、物が消える場所がある」
「……は?」
意味がわからない。
「たまにだ」
「狙って出せるもんじゃねぇ」
「でも、運がいいと――」
足元を軽く叩く。
「こうやって、丸ごと消える」
「あとで別の場所に出てくる」
「それを回収するだけだ」
「ふざけるな!」
依頼人が怒鳴る。
「そんなもの――」
「あるんだよ」
リックが吐き捨てる。
「実際、消えてただろ」
「……っ」
言い返せない。
「最初は偶然だった」
「でも、気づいたら――」
「使ってたか」
「……ああ」
視線を逸らす。
「楽に稼げる」
「やめられなかった」
「クズだな」
「……否定しねぇよ」
小さく吐き出す。
「で」
一歩近づく。
「なんで逃げた?」
「バレたら終わりだからな」
「最初は事故のフリしてた」
「でも回数増えたら怪しまれる」
「だから消えた」
「……雑だな」
「うるせぇよ」
完全に折れている。
「……なるほどな」
小さく呟く。
なるほど、とは言ったが――
正直、仕組みはよくわからん。
でも。
「やってることは、ただの盗みだ」
それだけは確かだ。
「……返せ」
依頼人が低く言う。
「全部、返せ」
「……もう売った分もある」
「でも、残りはある」
「場所を言え」
「わかった……」
力なく頷く。
「……終わりだな」
小さく息を吐く。
視界の端を見る。
残り時間 0:52
「ギリギリか」
コメントが流れる。
『なんだ今の』
『消えたよな?』
『トリックじゃなくね?』
『普通に怖いんだが』
『でも理由あったのは納得』
「……さて」
軽く肩を回す。
「ちゃんとやれよ」
誰にともなく言う。
配信終了。
コメントが消える。
静けさが戻る。
「……お前」
ダグが呟く。
「なんでわかった」
「勘だよ」
軽く答える。
「と、ちょっとした確認」
「それで当てるか普通」
「当たったからいいだろ」
笑う。
依頼人が深く頭を下げた。
「……助かった」
「マジで」
「報酬、上乗せする」
「いいね」
素直に頷く。
その時。
ふと、さっきの言葉が引っかかる。
「……バグ、か」
ぽつりと呟く。
この世界。
思ってたより――
「雑だな」
小さく笑う。
空を見上げる。
変わらない空。
でも、その裏で。
よくわからないことが、普通に起きる。
「……まあいい」
深く考えるのは後だ。
今は――
「暴ければいい」
それだけで十分だった。




