12話 報酬とギルドの思惑
ギルドに戻ると、空気が少し違っていた。
ざわつきはある。
だが――視線の質が変わっている。
「……見られてんな」
ダグが小さく言う。
「だな」
興味本位じゃない。
評価と警戒。
「面倒だな」
「有名人ってのはそういうもんだ」
「なった覚えはないけどな」
軽く返す。
カウンターへ向かう。
受付の女が、すぐに気づいた。
「お帰りなさい」
少しだけ、態度が丁寧になっている。
「依頼、終わった」
「報告をお願いします」
簡単に経緯を話す。
途中で何度か頷き、最後に書類をまとめた。
「……確認しました。問題ありません」
小さく息をつく。
「報酬はこちらです」
袋を渡される。
中を見る。
「……銀貨、けっこうあるな」
「難易度の割には、ですが」
「十分だ」
袋をしまう。
「それと」
受付が少し声を落とす。
「今回の件で、上から評価が出ています」
「上?」
「ギルド幹部です」
「……へぇ」
あまり興味はないが、聞いておく。
「“特別協力者候補”として名前が上がっています」
「候補ね」
「正式な依頼や、優先案件が回る可能性があります」
「つまり、面倒ごとが増えると」
「……否定はできません」
苦笑する受付。
「まあ、悪い話ばかりではありません」
「報酬も上がる?」
「はい」
「ならアリだな」
あっさりと言う。
受付が少し驚いた顔をした。
「もう少し慎重になるかと」
「金は大事だろ」
「……正直ですね」
「嘘は嫌いなんで」
軽く笑う。
「それと、もうひとつ」
受付が視線を横に向ける。
「今回の件ですが――内部で処理されました」
「内部?」
「公にはしません」
「……なるほど」
ギルドの体面ってやつか。
「ただし、関係者は処分されます」
「ならいい」
それ以上は踏み込まない。
「次の依頼は?」
「いくつかありますが……」
受付が数枚の紙を出す。
討伐、護衛、調査。
その中で、一枚に目が止まる。
「……これ」
「それですか」
少しだけ表情が変わる。
「何だ?」
「最近増えている案件です」
紙を見る。
“荷の消失”
「輸送中の荷が、跡形もなく消える」
「盗賊か?」
「痕跡がないそうです」
「……面白いな」
口角が上がる。
「関係者も口を揃えて“わからない”としか言わない」
「嘘くせぇな」
「同感です」
受付が小さく頷く。
「受けるか?」
「受ける」
即答だった。
「ありがとうございます」
依頼書を受け取る。
「場所は?」
「町の外れから街道にかけてです。詳しくは依頼主から」
「了解」
カウンターを離れる。
ダグが腕を組んで待っていた。
「次は何だ」
「荷が消えるらしい」
「……また面倒そうだな」
「いいじゃねぇか」
軽く笑う。
「嘘があるなら、暴ける」
「全部それだな」
「そういうもんだろ」
ギルドを出る。
外の光が少し眩しい。
「……荷が消える、か」
ぽつりと呟く。
ただの盗賊じゃない。
そんな気がする。
「……まあいい」
どうせ――
「やればわかる」
歩き出す。
その背中に、いくつもの視線が向けられていた。
期待と、不安。
そして――
どこかで、誰かが見ている。
そんな気配だけが、微かに残っていた。




