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11話 市場の嘘

市場は、騒がしかった。


行き交う人の声。呼び込み。値段交渉。




ギルドでの一件から、一日が経っている。




「……いいね」


軽く見回す。


情報が転がってる場所だ。


歩きながら、昨日の感覚を思い出す。


スキル――“配信者”。


任意発動。


発動した瞬間、あのコメントが見える。


そして、名声値。


現実での登録者数。


二百五十万。


それがそのまま、“信じさせる力”になる。


五分の時間制限。


使えば減る。


ゼロで終了。


再使用は一日後、もしくはレベルアップ時。




「昨日は使えなかったしな」




小さく呟く。


「……シンプルだけど、強すぎるな」


「何がだ?」

ダグが横で聞く。


「こっちの話だ」


軽く流す。


依頼の紙を思い出す。


“商人同士のトラブル”


証拠がない。


だから解決できない。


「……つまり」


にやりと笑う。


「嘘が混ざってるってことだ」


「楽しそうだな、お前」

「だろ?」


少し歩くと、騒ぎが見えてきた。


人だかり。


中心で、二人の男が言い争っている。


「だから俺の荷だって言ってんだろ!」

「ふざけるな!それは俺が仕入れた物だ!」


周囲の商人たちが距離を取って見ている。


「……あれだな」

「だろうな」


ダグも頷く。


近づく。


荷台の上には木箱。


数も多い。


「話、聞かせてもらっていいか?」


声をかける。


二人の男がこちらを見る。


「は?誰だお前」

「関係ねぇだろ」


「関係あるかもしれねぇだろ」


軽く肩をすくめる。


「依頼で来てる」


その一言で、周囲の空気が少し変わる。


「……ギルドか」

「なら話は早い。こいつが嘘ついてんだ!」


片方が指をさす。


もう片方もすぐに言い返す。


「お前だろうが!」


「……なるほどな」


典型的だ。


どっちも譲らない。


証拠もない。


「荷はどっちが持ってきた?」

「俺だ!」

「俺に決まってるだろ!」


即答、しかも被る。


「仕入れ先は?」

「南の商会だ!」

「同じだ!」


「……はは」


思わず笑う。


「何がおかしい!」

「いや、面白くてな」


視線を落とす。


木箱。


同じように見えるが――


「……雑だな」


ぽつりと呟く。


「は?」

「何がだ」


顔を上げる。


「どっちかが嘘ついてる」


「当たり前だろ!」


「だからさ」


一歩前に出る。


「そろそろ終わらせようぜ」


その瞬間。




視界に、文字が流れる。




『きたあああ』

『また始まった!?』

『昨日の続きか?』

『場所どこだよこれ』

『ほんとに異世界なん?』




口元が歪む。




スキル発動。


残り時間――5:00


「おい」


片方の男を見る。


「もう一回言え」


「だ、だから俺の荷で――」


止まらない。


「実は途中で中身をすり替えた!元の持ち主から奪うために……!」


周囲がざわつく。


「なっ……!」


もう片方の男が目を見開く。


「てめぇ……!」


コメントが加速する。


『はい黒』

『いや仕込みじゃね?』

『でもリアルすぎる』

『これどうなってんだマジで』

『さっきから展開早すぎ』


「違う!これは……!」


「まだあるだろ」


冷たく言う。


「全部吐けよ」


男の顔が歪む。


「……っ」


そして――


「偽物の箱を用意して……入れ替えた……!」


完全に沈黙。


周囲の視線が一斉に集まる。


「……決まりだな」


小さく息を吐く。


「お前の負けだ」


男は崩れるように膝をついた。


「くそ……」


「荷は返してもらうぞ」


もう一人の商人が言う。


「……ああ」


抵抗する気はもうないらしい。


「終わりだな」


軽く周囲を見る。


問題なし。


視界の端を見る。




残り時間 1:12




「まだ余裕あるな」


小さく呟く。


コメントが流れる。


『毎回短くね?』

『これ何分なんだ?』

『なんで急に終わるんだろ』

『仕様なのか?』

『謎すぎるんだが』


「……さて」


踵を返す。




配信終了。




コメントが消える。


静けさが戻る。


「……お前」


ダグが呟く。


「本当に便利な力だな」


「だろ?」


軽く笑う。


「これで飯食ってきたからな」


市場の空気は、すでに元に戻りつつあった。


「……悪くない」


ぽつりと呟く。


「この世界」


嘘はある。


でも――


暴く価値もある。


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