9話 ギルドと初仕事
町の通りは、想像以上に賑やかだった。
行き交う人々。呼び込みの声。並ぶ屋台。
「……いいな、これ」
思わず呟く。
「気に入ったか」
「嫌いじゃない」
むしろ――
「ネタの匂いしかしねぇ」
ダグが呆れたように息をつく。
「お前、本当に変わってるな」
しばらく歩くと、大きめの建物が見えてきた。
看板には剣と盾の紋章。
「ここだ」
「……冒険者ギルドか」
「そうだ。とりあえず登録しとけ。身分証にもなる」
「便利だな」
中に入る。
ざわっとした空気。
酒の匂い。笑い声。怒鳴り声。
いかにも“それっぽい”。
「……テンプレだな」
「何だそれは」
「気にすんな」
カウンターへ向かう。
受付の女が顔を上げた。
「いらっしゃい。ご用件は?」
「登録したい」
「初めてですね。こちらへ」
手続きを進める。
名前、年齢、簡単な確認。
「身分証は?」
「ない」
「……珍しいですね」
少し怪しまれる。
まあ、当然だ。
「保証人ならいる」
ダグを指差す。
「商人ギルド所属だ」
「確認します」
カードを見せると、受付は頷いた。
「問題ありません。登録可能です」
金を払う。
銀貨数枚。
「安いな」
「最初だけだ。その後は働け」
カードを渡される。
「これであなたも冒険者です」
「へぇ」
カードを軽く眺める。
悪くない。
その時だった。
「ふざけんなって言ってんだろ!」
怒鳴り声が響く。
振り返る。
一人の男が、受付に詰め寄っていた。
「報酬が違う!話と違うじゃねぇか!」
「規約通りです」
受付は冷静に返す。
「知るかよ!俺は命張ってんだぞ!」
周囲がざわつく。
「……よくあるやつだ」
ダグが小さく言う。
「そうか?」
男の言葉は荒いが、どこか違和感があった。
「……なあ」
少し前に出る。
「話、聞かせてくれよ」
男が睨んでくる。
「は?誰だてめぇ」
「通りすがりの冒険者だ」
「関係ねぇだろ」
「あるかもしれねぇだろ」
軽く笑う。
「損はさせねぇ」
男は舌打ちするが、完全には無視しない。
「……クソが」
小さく吐き捨てる。
「……どうする気だ」
ダグが低く聞く。
「決まってる」
小さく答える。
「“暴く”」
その瞬間。
視界の端に、文字が流れた。
『きた?』
『配信!?』
『ギルド!?』
『うおおおお』
口元が、自然と歪む。
「……やっぱ来たか」
スキル発動。
残り時間――5:00
「おい」
男に視線を向ける。
「もう一回言ってみろ」
「は?だから――」
男の口が、止まらなくなる。
「依頼は簡単な護衛のはずだった!でも実際は魔物の巣に近い場所で、数も多くて――!」
周囲がざわつく。
受付の顔色が変わる。
「お客様、その発言は――」
「うるせぇ!しかも仲介した職員が“問題ない”って言ったんだよ!裏で話つけてただろ!」
空気が、一気に変わる。
「……へぇ」
小さく呟く。
「なるほどな」
コメントが流れる。
『黒じゃん』
『ギルドやばくね?』
『これガチ?』
『トゥルたん無双きた』
受付の一人が、明らかに動揺している。
視線をそいつに向ける。
「お前だろ」
「な、何を――」
「さっきから目が泳いでる」
一歩近づく。
「言えよ」
「俺が“信じてやる”」
男の顔が歪む。
「……っ」
そして――
「……紹介料、もらってた」
ざわっ、と空気が揺れる。
「危険な依頼を回して、その分……」
「やっぱりか」
軽く息を吐く。
「最低だな」
騒ぎは一気に広がる。
別の職員が飛び出してくる。
「どういうことだ!」
「し、知らない……!」
「全部聞こえてたぞ」
周囲の冒険者たちが口々に言う。
完全に、詰みだ。
「……っと」
視界の端を見る。
残り時間 0:23
「短ぇな」
小さく笑う。
最後に一言。
「ちゃんとやれよ、ギルド」
配信終了。
コメントが一瞬で消える。
静寂。
そして――
「……お前」
ダグが呟く。
「何者だ、本当に」
「ただの配信者だよ」
軽く肩をすくめる。
ギルドの奥では、すでに騒ぎが広がっていた。
「……面白くなってきたな」
そう呟いた。




