『秋風のラブレターと、琥珀色の約束』
『秋風のラブレターと、琥珀色の約束』
### 1. 郵便受けの「異物」
秋の風が庭の落ち葉をカサカサと鳴らす午後。僕はいつものように郵便受けの下で、カタンと音がするのを待っていた。
今日の郵便屋さんは、いつもより少しだけ長く玄関先に留まっていた。そして落ちてきたのは、いつものチラシや請求書ではない。
淡いピンク色の、甘い花の香りがする封筒だった。
「先輩、今の匂い……サチコさんのコーヒーとは違う、もっとこう、ドキドキする匂いがするよ」
チビが鼻をヒクヒクさせながら、封筒を前足でちょんちょんと突っつく。
僕はその封筒をじっと見つめた。
(まさか、サチコさんに『ライバル』が現れたのか?)
僕たちの知らないところで、サチコさんの笑顔を独り占めしようとする人間が現れたのかもしれない。警備局長として、これは見過ごせない事態だ。
### 2. ルークの高度なプロファイリング
生垣の隙間で緊急会議が開かれた。
ルークは僕たちが持ち出した封筒の匂いを慎重に嗅ぎ、分析を開始した。
「コタロウ、落ち着きたまえ。この香料は『オールドローズ』。そして筆跡の筆圧から推測するに、送り主は相当な緊張状態にある。……これは、人間が言うところの『ラブレター』の可能性が87%だ」
「ラブレター!?」
チビが目を丸くする。
「それって、サチコさんがその人と一緒になっちゃって、僕たちの影が薄くなるってこと?」
僕は想像した。サチコさんの隣に、知らない男の人が座っている姿を。
僕の耳を撫でる手が、半分になってしまうかもしれない。
チビの遊び相手が、その人に奪われてしまうかもしれない。
「……阻止するぞ。サチコさんの平和(と、僕たちの撫でられ権)を守るんだ!」
### 3. 秋の夜の「視察」
その日の夜。サチコさんが封筒を大事そうにバッグにしまい、いつもより少しおしゃれをして出かける準備を始めた。
「コタロウ、チビ。今日は少し帰りが遅くなるからね。いい子にしてて」
サチコさんが家を出た瞬間、僕たちは行動を開始した。
幸い、ルークの飼い主もちょうど外出中だ。僕たちは三匹で、夜の住宅街へと忍び出した。
サチコさんが向かったのは、街外れにある琥珀色の灯りが漏れる小さなカフェだった。
窓の外から中を伺うと、サチコさんの向かいには、優しそうな目をした一人の男の人が座っていた。
「……あいつか」
僕は牙を剥く準備をした。
けれど、ルークが僕の肩に前足を置いた。
「待て、コタロウ。彼の足元を見てごらん」
### 4. 意外な「同業者」
男の人の足元には、一匹の小さくて老いた、静かな佇まいの老犬が伏せていた。
その老犬は、僕たちが外にいることに気づくと、ゆっくりと片目を開け、静かに尻尾を一度だけ振った。
「……新入りか。心配するな、主たちはただ、お互いの孤独を埋め合っているだけだ」
その老犬の瞳には、長い年月をかけて人間を守り続けてきた者だけが持つ、深い慈愛の色があった。
サチコさんは、その男の人と話しながら、時折足元の老犬を優しく撫でている。
男の人も、サチコさんの話を楽しそうに聞きながら、自分の犬を大切そうに見守っていた。
「コタロウ、見ろよ」
ルークが囁いた。
「サチコさんの表情……。僕たちの前で見せる笑顔とはまた違う、柔らかい色をしている」
### 5. 新しい「警備体制」
僕たちは、サチコさんの幸せそうな顔を見て、静かに家へと引き返した。
「……先輩、僕たちの仕事、減らないみたいだね」
チビが安堵したように言った。
「ああ。むしろ増えるかもしれない。守らなきゃいけない『笑顔』が、もう一つ増えたんだからな」
帰り道、ルークが月を見上げて言った。
「コタロウ。今度、あの老犬を僕たちの会議に誘ってみないか? 僕の知らない歴史を、彼は知っていそうだ」
家に戻ると、僕は玄関のマットの上で、サチコさんの帰りを待った。
しばらくして帰ってきたサチコさんは、僕の頭を、いつも以上に優しく、長く撫でてくれた。
「コタロウ、ただいま。……いい出会いがあったわよ」
僕はサチコさんの手に鼻を押し当てた。
大丈夫、サチコさん。その「いい出会い」も、僕たちがちゃんと審査して、守ってあげるから。
秋の夜風に乗って、また新しい物語の匂いがしてきた。
陽だまりの警備保障、今日の任務も無事に、そして最高な形で終了だ。
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