『三匹の騎士(ナイト)と、迷子の小さな冒険者』
『三匹の騎士と、迷子の小さな冒険者』
### 1. 合同パトロールの違和感
隣同士の生垣が、今では僕たちの「作戦会議室」だ。
僕とチビ、そしてエリートのルーク。
「コタロウ、今日の風の匂いはいつもと違う。湿度30%、北北西の風……その中に、ここらでは嗅ぎ慣れない匂いが混じっている」
ルークが長い鼻をピクつかせ、分析結果を報告する。
「相変わらず細かいな、ルーク。でも、確かに変だ。……これは、甘いお菓子の匂いと、少しの『涙』の匂いか?」
僕も空気を深く吸い込む。柴犬の野性の勘が、何かが起きていると告げていた。
その時、チビが屋根の上から鋭い声を上げた。
「先輩! あそこ、公園の裏の細い道! 小さな人間が一人で歩いてるよ!」
### 2. ターゲット確認:迷子の「ハナちゃん」
そこには、近所に住む幼稚園児のハナちゃんがいた。
いつもは大きな人間の手を握って散歩しているはずなのに、今は一人で、大きなクマのぬいぐるみを引きずりながらトボトボと歩いている。
「まずいぞ、あそこは野良猫の縄張りだし、大きな通りも近い」
僕は立ち上がった。
「ルーク、君の飼い主はまだ帰っていないのか? 脱走は禁止か?」
「……今の僕は、ドッグスクールの卒業生じゃない。ハナちゃんの安全を守る『一匹の犬』だ」
ルークはそう言うと、華麗な身のこなしで門扉をすり抜けた。
### 3. 三匹のフォーメーション
僕たちはハナちゃんに気づかれないよう、でも確実に守れる距離で「護衛陣形」を組んだ。
* **チビ:** 屋根の上から先読みする「偵察担当」。
* **ルーク:** 白く大きな体で、車や自転車からハナちゃんを遠ざける「盾担当」。
* **僕:** いざという時にハナちゃんの前に出る「警備局長」。
ハナちゃんが信号のない交差点に差し掛かった。彼女は左右を見ずに渡ろうとする。
その時、ルークが反対側から「ワン!」と凛とした声で吠えた。
ハナちゃんが驚いて足を止める。その隙に、僕は彼女の足元に駆け寄り、わざと尻尾を振って「ねえ、遊ぼうよ」と誘うふりをして、彼女を歩道の端へ誘導した。
「あ、コタロウくんだ! ルークくんも!」
ハナちゃんは僕たちの首元に抱きついた。その手は少し震えていたけれど、僕たちの毛の温もりに触れて、安心したように笑顔が戻った。
### 4. 任務完了、そして絆
やがて、血相を変えて走ってきたハナちゃんのママが、僕たちと一緒にいる彼女を見つけて泣き崩れた。
「よかった……コタロウくん、ルークくん、守ってくれてたのね……!」
駆けつけた警察官や近所の人たちに囲まれ、僕たちは少し照れくさかった。
ルークは相変わらずシュッとした「おすわり」を決め、僕は誇らしげに鼻を鳴らす。チビは電柱の陰から、満足げに喉を鳴らしていた。
その日の夕暮れ。
サチコさんが帰ってきて、事の顛末を近所の人から聞いたらしく、晩ごはんは**過去最高級の豪華版**になった。
「コタロウ、今日は本当に立派だったわね」
サチコさんの手には、いつものサツマイモに加えて、なんと、**茹でた鶏のささみ**が添えられていた。
僕は生垣の隙間に、そのささみを少しだけ運んだ。
「おい、ルーク。今日の分け前だ。……ドッグスクールの飯よりは旨いと思うぞ」
「……感謝するよ、コタロウ。君の言う通り、実戦の後の食事は格別だね」
僕とチビ、そしてルーク。
三匹の騎士たちは、黄金色の夕焼けを見上げながら、それぞれの「戦功」を称え合うように、静かに夜の警備へと入っていった。
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