『食欲の秋の包囲網と、黄金色の泥棒猫』
『食欲の秋の包囲網と、黄金色の泥棒猫』
### 1. 焼き芋の香りは、平和の香り
ある土曜日の午後。サチコさんが庭の隅で、落ち葉を集めて小さな焚き火を始めた。
「コタロウ、チビ。今日は特別に、あまーいお芋を焼くわよ」
濡れた新聞紙とアルミホイルに包まれたサツマイモが、パチパチという音とともに灰の中に潜っていく。
僕とチビは、その香ばしい匂いに鼻をヒクヒクさせ、今か今かと待機していた。
「先輩、これって……僕たちの『松ぼっくり』のエネルギーが、お芋に乗り移ったんじゃないかな?」
チビが期待に目を輝かせる。
### 2. 招かれざる「食いしん坊」の影
その時、生垣の向こうでルークが低く唸った。
「コタロウ、警戒しろ。……10時の方角、隣の柿の木の影だ。かなり手強い『食のプロ』が潜入している」
ルークの視線の先には、見たこともないほど丸々と太った、立派な三毛猫がいた。
その猫は、サチコさんの焚き火から漂うお芋の匂いを、まるでソムリエのように吟味している。
「あいつ、近所で有名な『グルメのミケ』だ!」
ソラが空から急降下してきて警告する。
「ギィーッ! あいつは人間が目を離した一瞬の隙に、お皿から直接おやつを奪う『神速の肉球』を持っているぞ!」
### 3. お芋死守! 黄金の防衛線
サチコさんがお茶を取りに、ほんの数秒だけ席を立った。
ミケが動いた。音もなく、重力を無視したような動きで焚き火のそばへと忍び寄る。
「……今だ! チビ、囮になれ!」
「了解!」
チビがわざとらしくミケの視界で、おもちゃのネズミを放り投げて踊る。
ミケが一瞬、その奇妙な動きに目を奪われた隙に、僕はサチコさんの椅子の前に立ち塞がり、堂々たる「お座り」で進路を塞いだ。
さらに、ルークがフェンス越しに、エリート仕込みの「威厳ある鼻息」を放つ。
「……フッ(ここは僕たちの管轄だ)」
### 4. 意外な「和平交渉」
ミケは僕たちの連携に驚いたのか、足を止めた。
けれど、その目はまだお芋を諦めていない。
その時、アーサー先輩が飼い主の男性と一緒に、ひょっこりと庭に現れた。
アーサー先輩は、その大きな体でミケの前にゆっくりと歩み寄ると、静かに鼻を近づけた。
「……ミケよ。争いはよせ。この家には、皆で分け合う『陽だまり』のルールがある」
アーサー先輩の言葉に(あるいは男性が持っていた、猫用の高級おやつに)、ミケはあっさりと降参した。
やがてサチコさんが戻ってきて、ホクホクのお芋を割り始めた。
「あら、お客様? じゃあ、みんなで食べましょうね」
### 5. 秋の夕暮れの「大宴会」
サチコさんは、僕たち三匹(とアーサー先輩)には真ん中の美味しいところを。
ミケには、男性からもらった猫用おやつを。
そして、木の上で見守っていたソラには、小さなナッツを。
庭には、お芋の湯気と、みんなが満足そうに食べる音が溢れた。
「ライバル」だったミケも、今では僕たちの隣で、幸せそうに喉を鳴らしている。
「先輩……秋って、お腹がいっぱいになると、なんだか世界がキラキラして見えるね」
チビが、お芋の欠片を大事そうに食べながら呟く。
「陽だまりの警備保障、本日も異常なし。……というか、全員『お昼寝モード』により任務一時休止だ」
夕日に照らされた庭で、柴犬と、サモエドと、黒猫と、三毛猫が、並んで丸くなって眠る。
土の中の松ぼっくりも、きっと今夜はホクホクと温かい夢を見ているに違いない。
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