『雷鳴の華と、小さな騎士の震える背中』
『雷鳴の華と、小さな騎士の震える背中』
### 1. 「ドーン」の恐怖
夕暮れ時。サチコさんが浴衣に着替え、嬉しそうに鏡を見ていた。
「今夜は花火大会ね。コタロウ、チビ、お留守番お願いね。ルークくんのところも一緒だから大丈夫よ」
サチコさんが出かけた後、街は急に静まり返った。
そして、その「音」は突然やってきた。
**「ドーーーン!!!」**
地響きのような音が空から降り注ぐ。
僕は先代クロさんの教えを思い出し、低く構えたが、隣にいたチビが雷に打たれたように飛び上がった。
「せんぱい……! 空が……空が爆発してるよぉ……!」
チビは毛を逆立て、パニックを起こしてソファの隅っこに潜り込もうとした。
### 2. ルークの「緊急避難勧告」
生垣の向こうから、ルークがかつてないほど切羽詰まった声で吠えた。
「コタロウ! 我が家の主も不在だ! このデシベル値はチビの許容範囲を超えている。すぐに合流してシェルター(僕の家の防音室)に移動するんだ!」
僕は震えるチビの首根っこをやさしく咥え、ルークの家へと走った。
「ソラ、上空から状況を報告しろ!」
ソラが火の粉を避けるように高く舞い上がり、鋭く鳴いた。
「ギィーッ! まだまだ続くぞ、次はもっとデカいのが来る! 隠れろ、地上部隊!」
### 3. 三匹の「防音陣形」
ルークの家の奥にある、厚いカーテンで仕切られた静かな部屋。
そこでも、外の振動は伝わってくる。チビは僕の懐に潜り込み、小刻みに震えていた。
「チビ、大丈夫だ。あれは敵じゃない。人間たちが空に描いている『絵日記』みたいなもんだ」
僕はチビの耳を塞ぐように、自分の大きな冬毛(の残りの夏毛)を押し当てた。
「コタロウ、僕が反対側を固める」
ルークがチビの背中を、その白い大きな体で包み込んだ。
僕(柴犬)とルーク(サモエド)で作った、即席の「モコモコ・シェルター」。
「……あったかい……」
チビの震えが、少しずつ収まっていく。
僕たちは、外で「ドーン!」と響くたびに、お互いの体に力を込め、チビを外の世界から切り離した。
### 4. 静寂のあとの「光」
一時間後。最後の大きな音が消え、街に静寂が戻った。
ソラが窓をコツコツと叩き、「任務完了だ。空は掃除されたぞ」と告げた。
チビが恐る恐る顔を出す。
窓の外には、花火の煙が月明かりに照らされて、幻想的にたなびいていた。
「……終わったの?」
「ああ。お前の勝ちだ、チビ。最後まで逃げ出さなかったじゃないか」
僕がそう言うと、チビは少しだけ照れくさそうに「……だって、先輩たちがいたから」と呟いた。
### 5. 帰り道の「おみやげ」
サチコさんが帰ってきた。その手には、お祭りの屋台で買ってきた、リンゴ飴……ではなく、僕たちのための**「氷で冷やしたトウモロコシ」**があった。
「ただいま! 怖かったわよね、よく頑張ったわね、みんな」
サチコさんは、ルークの家まで迎えに来てくれた。
僕たちは、ルークと並んでトウモロコシを齧った。
「ルーク、今日は助かった。エリートのシェルターは居心地が良かったよ」
「光栄だね。でも、一番の防音材は君の『動かない決意』だったよ、コタロウ」
夏の夜。
花火の音は怖かったけれど、そのおかげで僕たちの距離はまた少しだけ縮まった。
カメくんも、池の底から上がってきて、夜風を楽しんでいる。
陽だまりの警備保障、夏最大の試練を突破。
秋の風が、すぐそこまで来ている匂いがした。
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