『真夏の夜の再会と、見えないお客様』
『真夏の夜の再会と、見えないお客様』
### 1. お盆の「特別な匂い」
サチコさんが、リビングの小さな棚にお供え物を用意し始めた。
ナスやキュウリに割り箸を刺した「馬」と「牛」。そして、どこか懐かしいお線香の匂い。
「コタロウ、チビ。今日からお盆よ。昔、この家を守ってくれていた『先代』の皆さんも帰ってくるわね」
サチコさんの言葉に、僕は背筋をピンと伸ばした。
現役の警備局長として、大先輩たちに失礼があってはならない。
「先輩、なんだか玄関のあたり、透明な足跡がいっぱいある気がするよ!」
チビが何もない空間に向かって、楽しそうに尻尾を振っている。
### 2. ルークの「霊的」プロファイリング
生垣へ向かうと、ルークが神妙な面持ちで座っていた。
「コタロウ、今夜は特殊なエネルギーが街に充満している。僕のセンサーによると、過去にこの地を守護していた優秀なエージェントたちが、一斉に帰還しているようだ」
「ルーク、お前も感じるか。先代たちの視線を」
「ああ。特に、君の家の庭にある『あの桜の木』だ。あそこに、とてつもなく偉大な気配が留まっている」
二匹で庭を注視していると、ソラが空から静かに降りてきた。
「ギィー……。今夜は空の道も大渋滞だ。でも、悪い気配じゃない。みんな、自分の愛した場所を確かめに来ているだけだ」
### 3. 深夜の「合同演習」
夜中。サチコさんが寝静まった頃、庭でカサリと音がした。
僕はチビとルークを連れて、音のする方へ向かった。
そこには、月明かりに照らされた「銀色の影」が二つ、三つと揺れていた。
それは、かつてこの家でサチコさん(や、その前の家族)と暮らしていた、先代の犬や猫たちの姿だった。
「……お前が今の警備局長か」
一番大きな影——かつてこの家を十数年守り抜いたという伝説の柴犬「クロ」さんが、僕の前に立った。
僕は言葉を失い、ただ深く頭を下げた。
「なかなか良い面構えだ。泥だらけで鍵を探し、カメを守り、氷を運ぶ……。お前たちのやり方は少し型破りだが、この家の『陽だまり』は、俺たちの頃よりずっと温かい」
### 4. 伝説の技術継承
クロさんは、僕に「極意」を教えてくれた。
「コタロウ、忘れるな。俺たちの真の仕事は、不審者を追い払うことじゃない。サチコがふとした時に感じる『あぁ、一人じゃないんだ』という安心感の、その『理由』になることだ」
クロさんたちは、明け方まで僕たちと一緒に庭を見回り、効果的な「おねだり」の角度や、一番日当たりの良い場所の掘り起こし方など、秘伝の技を伝授してくれた。
朝、東の空が白み始めると、彼らの姿は朝霧に溶けるように消えていった。
「後は任せたぞ、若造」
その声は、松ぼっくりが埋まっている土の底から響いた気がした。
### 5. 新しい一日の始まり
サチコさんが起きてきて、仏壇の前で手を合わせた。
「みんな、ゆっくりできたかしら。コタロウ、なんだかあなた、今日は一段と頼もしく見えるわね」
サチコさんは僕の頭を力強く撫でてくれた。
その手のひらを通して、先代たちから受け継いだ「守護者の重み」が、じんわりと僕の心に染み渡っていく。
庭では、カメくんが池の淵で深々とお辞儀(のような動き)をし、ソラが空高く舞い上がって朝の報告を始めた。
「陽だまりの警備保障」は、僕たちだけじゃない。
目に見える仲間、目に見えない先輩、そしてこの家を包む全ての記憶。
そのすべてで、今日もサチコさんの笑顔を守り抜く。
さあ、夏休みはまだ続く。
次はどんな冒険が待っているだろうか。
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