『冬の足音と、お揃いのマフラー』
『冬の足音と、お揃いのマフラー』
### 1. モコモコの季節
朝、窓ガラスが真っ白に曇るようになった。
僕は、サチコさんが用意してくれた冬用の分厚いクッションから出るのに、少しだけ勇気がいるようになった。
「コタロウ、チビ。今日はこれをつけていきましょうね」
サチコさんが取り出したのは、赤と緑のチェック柄が可愛い、手編みの**「お揃いのマフラー」**だった。
僕には首に巻くタイプ、チビには少し小さめの、でも僕と同じ柄のもの。
「先輩、見て見て! 僕、なんだか強くなった気がするよ!」
チビが鏡の前で尻尾をピンと立てて誇らしげにしている。
僕も鏡を覗くと、いつもの「警備局長」が、少しだけ「高貴な英国紳士」になったように見えた。
### 2. ルークの冬支度
生垣の隙間から、隣のルークが顔を出した。
彼もまた、サモエドの白い毛をさらにボリュームアップさせ、首元には銀色の刺繍が入ったネイビーのバンダナを巻いていた。
「やあ、コタロウ。そのチェック柄、今シーズンのトレンドを完璧に押さえているね。……ところで、今日のパトロールは少し警戒を強めたほうがいい」
ルークが真剣な目つきで空を見上げた。
「どうした、ルーク。不審な匂いでもしたか?」
「いや……『沈黙』の匂いだ。雪が来る。僕の気圧計(耳の奥)がそう告げているよ」
### 3. 初雪の警備任務
午後、空から白い欠片がひらりと舞い降りた。
初雪だ。
「わあ、冷たい! 先輩、空から白いおやつが降ってきたよ!」
チビが庭を駆け回り、空中でパクパクと雪を追いかける。
でも、僕の任務は「遊び」じゃない。雪が積もれば、サチコさんの帰り道が滑りやすくなる。
僕はアーサー先輩に教わった「人間を安心させる方法」を思い出していた。
サチコさんが帰ってきたとき、玄関が冷え切っていたら、彼女は寂しい思いをするかもしれない。
僕はチビを呼び寄せた。
「チビ、遊びは終わりだ。玄関のマットに、僕たちの『体温』を蓄積させるぞ」
僕たちは玄関のドアのすぐ内側に並んで伏せた。二匹分のモコモコの毛と、サチコさんのマフラーの温かさを、マットにじっくりと染み込ませる。これこそが、僕たちの「冬の特別警戒態勢」だ。
### 4. 雪夜の帰還
「ただいま……っ、寒かった……!」
ドアが開くと同時に、外から凍えるような風が吹き込んだ。でも、サチコさんの足元には、僕たちが温めておいた「陽だまり」が待っていた。
「あら……。あなたたち、ここで待っていてくれたの? 温かい……」
サチコさんは靴を脱ぐと、僕たちの間に座り込んで、冷たくなった手を僕の冬毛に深く埋めた。
「ありがとう、コタロウ。ありがとう、チビ。……マフラー、似合ってるわよ」
サチコさんの顔から、寒さの疲れが消え、いつもの穏やかな笑顔が戻る。
その時、窓の外でルークが一回だけ「ワン!」と短く吠えた。
窓の外を見ると、ルークの家の窓からも温かいオレンジ色の光が漏れ、彼は雪を冠った庭で、僕たちに静かに頷いていた。
### 5. 琥珀色の夢
その夜、サチコさんは僕たちに特別に温めたミルクを出してくれた。
部屋の中はストーブのパチパチという音と、サチコさんの読書をする紙の音だけ。
「先輩……冬って、冷たいけど、お家の中は一番温かいね」
チビが僕の腕の中で丸くなる。
僕は、庭の土深くに埋まった「松ぼっくり」のことを思った。
雪の下で、それは静かに眠りながら、この家の温もりを根っこから守ってくれている。
冬の夜は長い。
でも、僕たちの首に巻かれた「お揃いのマフラー」がある限り、僕たちの絆が冷めることはない。
僕は鼻先をサチコさんの足元に寄せ、深い眠りへと落ちていった。
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