表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された悪役令嬢ですが、港町で寿司屋を開店します~前世の知識で寿司を握ったら辺境伯様に溺愛されるようです~  作者: 緋村ルナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/16

第8章:美食家の来訪と、王都への誘い

 ある晴れた日の昼下がり、ポルト・マーレの素朴な町並みには不釣り合いな、豪華絢爛な紋章付きの馬車が「海の幸 リズ」の前に停まった。町中の人々が「何事か」と遠巻きに見守る中、馬車から降りてきたのは、いかにも裕福そうな身なりの、恰幅の良い白髪の紳士だった。

「ここが、噂のSUSH屋か。ふむ、鄙びてはいるが、悪くない構えだ」

 その老人こそ、ヴァイスラント王国で右に出る者はいないとまで言われる、伝説的な美食家、オルコット卿その人であった。彼は王都で耳にした「辺境の奇跡の料理」の噂を確かめるべく、わざわざ長い時間をかけてこんな田舎町までやってきたのだ。

「女主人に会わせてもらおう。最高のものを、用意してもらいたい」

 尊大な態度ではあるが、その瞳には食に対する純粋な好奇心と探究心が宿っている。リズは緊張で背筋を伸ばしつつも、彼を最高の客として迎え入れた。

「ようこそお越しくださいました、オルコット卿。本日は、私にすべてお任せいただけますでしょうか」

「良かろう。君の実力、とくと拝見させてもらおう」

 リズは持てる技術と知識のすべてを注ぎ込んだ「おまかせコース」を仕立てた。

 まずは前菜として、数種類の魚介を使ったカルパッチョ。次に、繊細な旨味を持つ白身魚の握りから始まり、濃厚な味わいの赤身、キラキラと輝く光り物へと続く。箸休めには、ガリの代わりとなる、甘酢で漬けた野菜。そして、甘辛い煮アナゴや、濃厚なウニに似た貝の軍艦巻き。最後は、デザートとして、魚のすり身と卵で作った、カステラのようにふんわりと甘い「卵焼き」。

 オルコット卿は、一貫一貫、まるで宝石を鑑定するかのようにじっくりと吟味し、味わっていた。その表情は厳しく、リズやマルコ、ソフィアは固唾を飲んで見守るしかない。

 そして、最後の卵焼きを食べ終えると、オルコット卿はカトラリーを置き、天を仰いで深いため息をついた。その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。

「……参った。完敗だ」

 彼は、絞り出すように言った。

「わしは七十年、この世のありとあらゆる美食を味わい尽くしてきたつもりだった。だが、どうやら今日この日まで、本当の『美味』というものを知らなかったようだ。リズ殿、君は天才だ! いや、これはもはや料理ではない。芸術であり、文化であり、そして…食の革命だ!」

 これ以上ないほどの賛辞だった。リズは、胸に込み上げてくる熱い思いに、ただ深々と頭を下げることしかできなかった。

「リズ殿、頼みがある」

 興奮冷めやらぬ様子のオルコット卿が、リズの手を取って言った。

「この素晴らしいSUSHという文化を、辺境だけのものにしておくのは、人類全体の損失だ! どうか、王都に店を出してはくれまいか。資金も、場所も、有力者への紹介も、このわしがすべて後援しよう!」

 願ってもない申し出だった。しかし、リズは一瞬、隣で静かに成り行きを見守っていたカイの顔を見た。王都へ行くということは、彼のもとを離れるということ。カイは、リズの心を見透かしたように、穏やかに微笑んだ。

「行くべきだ、リず。君の才能は、この小さな港町に収まる器ではない。君の夢を、俺も応援する」

 彼の言葉には、リズが自分の手の届かない場所へ行ってしまうことへの、ほんの一抹の寂しさが滲んでいた。しかしそれ以上に、彼女の成功を心から願う、温かい気持ちが込められていた。リズは、二人の支援者に深く感謝し、王都への挑戦を決意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ