第12章:握るは未来、広がるは文化
全ての障害が取り除かれ、リズがもたらした「SUSH」は、もはや単なる流行りの料理ではなく、ヴァイスラント王国の食文化として完全に定着した。
王都店は連日満員御礼。リズの指導を受けた弟子たちが、王国の主要都市に次々と暖簾分けの店を開き、新鮮な魚を安全かつ最高に美味しく食べるという革新的な文化が、国中にくまなく広まっていった。人々は、かつて悪役令嬢と呼ばれた彼女を、畏敬と親しみを込めて「食の聖女」、あるいは「寿司の聖女」と呼ぶようになった。
カイが治めるシルヴァーストーン領は、この食文化革命の中心地となった。ポルト・マーレで水揚げされる高品質な鮮魚や、リズが考案した様々な加工品は、王国随一の特産品として莫大な富をもたらした。リズが確立した徹底的な鮮度保持技術は、魚介類だけでなく、領内で採れる他の農産物の輸送にも応用され、シルヴァーストーン領は王国で最も豊かで活気のある領地の一つへと成長を遂げた。
そして、全ての始まりの地であるポルト・マーレで、リズとカイの結婚式が執り行われた。
会場は、青い海を一望できる、丘の上の小さな教会。参列しているのは、王侯貴族やオルコット卿のような大物だけではない。日に焼けた顔をほころばせるポルト・マーレの漁師たち。一番弟子のマルコや、今や本店を切り盛りするしっかり者のソフィア、そしてその家族たち。店の常連客たち。身分も出自も関係なく、心から二人を祝福する人々の温かい笑顔で、教会は埋め尽くされていた。
純白のドレスに身を包んだリズは、祭壇の前でカイと向き合う。彼女はもう「元悪役令嬢」でも「追放された妃」でもない。自分の力で運命を切り拓き、愛する人と、愛する仕事と共に、輝かしい未来を歩み始めようとしている一人の女性、リズだった。
誓いのキスを交わす二人を、窓から差し込む太陽の光と、喝采が優しく包み込む。
物語は、彼女の幸せに満ちた最高の笑顔で、一つの幕を閉じた。




