第11章:聖女の仮面、その終焉
リズがカイとの婚約を発表し、その名声が「食の革命家」として王都で揺るぎないものになっていく一方で、嫉妬と憎悪の炎を燃やす者がいた。聖女ミアだ。
レオナルドがリズに未練を残していること、そして世間の注目が自分ではなくリズに集まっていることが、彼女には我慢ならなかった。追い詰められたミアは、最後の、そして最悪の手段に打って出ることを決意する。聖女に与えられた聖なる力を、己の私怨のために悪用するのだ。
彼女は、リズの王都店に毎日納品される魚に、密かに呪いをかけた。それは強力な毒ではない。食べた者をすぐには殺さず、しかし確実に体を蝕み、苦しめる、微弱で陰湿な呪い。聖なる力とは正反対の、邪悪な波動をまとったものだった。大規模な食中毒事件を引き起こし、「リズのSUSHは呪われた食べ物だ」と吹聴して、彼女を社会的に抹殺する算段だった。
しかし、彼女の浅はかな計画は、すべてお見通しだった。
カイは、ミアが何かを仕掛けてくることを警戒し、腹心の密偵を彼女の周辺に放っていた。そして、ミアが魚市場で不審な動きを見せたことをいち早く察知したのだ。
報告を受けたカイは、すぐさまリズと連携を取った。呪いがかけられた魚が店に届くと、リズは厨房を完全に隔離し、浄化の魔法を最大限に発動させた。彼女の清浄な魔力は、魚にかけられた邪悪な呪いを綺麗に無効化した。だが、リズはカイの指示通り、あえて呪いの残滓――その痕跡だけを、僅かに魚に残しておいたのだ。
何も知らないミアは、計画が成功したと思い込み、王宮に駆け込んで芝居がかった悲劇のヒロインを演じた。
「陛下! 大変です! リズの店の邪悪な料理で、多くの人々が原因不明の病に苦しんでいます! あれは神の教えに背く悪魔の食べ物ですわ!」
彼女の訴えを受け、王の命により、高位の神官たちが「SUSH屋 リズ」の調査に入った。彼らが呪いの残滓が残る魚を鑑定した結果は、ミアの予想を根底から覆すものだった。
「こ、これは…! 間違いありません。聖女様が使われる聖なる力と波長は酷似している…。しかし、これほど邪悪で、禍々しい呪いの痕跡は見たことがない!」
聖女の力に似た、邪悪な呪い。その使い手は、一人しか考えられない。神官たちの報告により、ミアの嘘と、聖女の力を私利私欲のために悪用したという前代未聞の大罪は、完全に白日の下に晒された。
王宮を揺るがす大スキャンダル。ミアは聖女の称号を剥奪され、その奇跡の力の源だった魔力もすべて失い、一介の平民以下の犯罪者として、国外の修道院へ永久追放となった。
そして、彼女を盲信し、婚約者を不当に断罪し、国政を混乱させた責を問われたレオナルドもまた、王太子位の剥奪こそ免れたものの、その権威と権力の大半を削がれ、政治の表舞台から事実上姿を消すこととなった。
悪意は悪意によって滅び、永かった因縁は、ついに完全な終焉を迎えたのだった。




