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図書館物語  作者: 浅見はる
第五章 鳴滝町立新図書館
30/30

30.鳴滝町立図書館『サンズヒア』

2021年10月3日

「加藤館長、準備が整いました」

「ああ小森君、有難う。……ところで長谷川君はどこ行った?」

「館長代理は、さっきから玄関で来館者を出迎えてますよ」

「図書館が新しくなっても行動変わらんな、彼は」

「あははっ、そうですね」

「町長が間もなく視察に来るから、事務室に戻るように伝えてきてよ」

「はい、分かりました」

 

 ……その頃、僕は鳴滝町立図書館『サンズヒア』の玄関前にいた。今まで見てきたここからの景色は大きく変わった。新たな図書館は丘の上ではなく、鳴滝町役場の駐車場があった場所に移転した。

 だが、今まで丘の上の図書館までの坂道を、徒歩や自転車で来館していた老人にとってはおおむね好評だ。

「よお、洋ちゃん」

「加藤さん。おはようございます」

「立派な図書館になったなあ。ところで、読売新聞はどこで読めるんだい?」

「中に入ったら、右に行ってすぐですよ」

「あいよ、ありがとさん」

「走っちゃダメですよ」

「分かってるわい。もうそんなに若くないわ」

 そう笑いながら、加藤さんは杖を突きながらゆっくりと歩いていった。


「洋介兄ちゃん」

 すると、前方からニットの帽子を被った女の子が両親と歩いてきた。そして、弓子は僕に元気よく手を振った。

「弓子ちゃん、元気になったね」

「うん」

「その節は、いろいろと有難うございました。お陰様で手術も成功して普通に生活出来るようになりました」

「それは良かったです。じゃあこれから図書館でいっぱい本を読めるね、弓子ちゃん」

「うん。でも、たまには洋介兄ちゃんの読む本も聞きたいな」

「――こらっ、弓子」

「うん、いいですよ。任せといて」

「やったー。じゃあね、洋介兄ちゃん」

「どうぞ、行ってらっしゃい」


「長谷川館長代理、小森さんが探してましたよ。町長が来るから、館長が事務室に戻ってくれって」

「はい、分かりました。あ……っ、吉岡さん、今日の11時からでしたっけ? 業務引継ぎの打ち合わせって」

「ええ、そうですよ。第一会議室でお願いします」

「はい。じゃあ後で」

「あと、うちの上司がご挨拶したいからって、昼過ぎに来ますのでお願いしますね」

「了解」


 そうして、僕が事務室へ戻ると加藤館長は引っ越しのダンボールに入った書類を整理していた。

「すいません、加藤館長。お待たせしました」

「まだ大丈夫だと思うけどね。三船町長も、ここでしっかり町民にアピールしなくちゃいけないから、張り切って早く来そうな気がするんだよね。ほらっ、あの人せっかちだしさ」

「そうですね」

 そして、僕と加藤館長は目を合わせて笑った。それは、お互い今回の新図書館の計画でアレを出せ、これを早くやれとずいぶん三船町長から急かされて苦労したからだった。


「それにしても、日曜日ってこともあるけど来館者がすごいね。今日、開館前から相当並んでたよな。スタッフも大変だな」

「責任者の吉岡さんとの事前の打ち合わせだと、今日はスタッフを通常の倍以上の人数にしてるらしいですよ」

「なるほどね、やっぱこういう事に慣れた会社だから、分かってんだろうね」

「ええ、そうですね。吉岡さんも鳴滝町民ですし」

「まあ、そうだな」

「よし、じゃあ三船町長を出迎えるか」

 机の上のダンボールをポンっと叩いて、加藤館長は立ち上がった。

「あっ、はい」

 こうして、三船町長は図書館の1階のロビー前で、町民を前に挨拶を済ませると、図書館を一回りして帰っていった。

「これで儀式も全部終わったな。じゃあ、私は一旦役場に戻るから後はよろしく頼むね、長谷川君」

「分かりました」


 加藤館長が事務室を出ていくと、僕は自分の水筒から温かい緑茶をコップに注いで飲んだ。そして、一息ついてから、また来館者を迎えるために図書館の玄関に歩いた。

「洋介君」

「あ……っ、お義父さん」

「そこの紙芝居の部屋見てきたよ。ずいぶん君がこだわったらしいね。まるで修ちゃんの部屋みたいだったよ。かわいらしいおばけの人形も置いてあったし」

「はい、そうです」

「修ちゃん生きてたら、たくさんあそこで紙芝居読んでたんだろうね。早速、明日にでも修ちゃんに報告してくるかな」

「パパ」

「あ……っ、夢佳も来たのか」

「結局、みんなで来ちゃった」

 京子が、夢佳を抱っこしながら微笑んだ。

「ねえ、ねえ、パパ遊んで」

「ごめんね、夢佳。パパはお仕事中だから、今日はお爺ちゃんに遊んでもらうんだよ」

「ほら、夢佳。じいじが、あのお部屋で本読んであげるから行こう」

「わぁい」

「すいません、お義父さん。お願いします」

「了解、了解。仕事頑張ってな」

「頑張ってね、パパ。バイバイ」

「うん、バイバイ」


「長谷川さん」

「あ……っ、弓削さん、こんにちは」

「間野もすっかりお爺ちゃんですね。あんな顔、今まで見たことないですよ」

 弓削さんは、間野さんの後ろ姿を見ながら笑った。

「そうですよね」

「……それにしても、立派な図書館になったね。雰囲気もとてもいい。家田さんもきっと喜んでるよ」

「ありがとうございます」

「スマホで何でも読める時代になっても、この図書館の雰囲気の中で本を読むというのは全く違うもんだよ」

「ほんと、そうです」

「さて……、私もこれから、ここで老後を楽しませてもらいますよ」

「ええ、よろしくお願いします」

「じゃあ」



 翌朝、僕は家田さんの墓の前にいた。

「家田さん、鳴滝町の新しい図書館がオープンしましたよ。あなたが関わった前の図書館は、役場の公文書の保管施設として残ることになりました。今まで家田さんに教えてもらった経験や、いろいろな人とのご縁も繋いでもらって本当に助かりました。有難うございました」


 この時、僕は古い図書館の薄暗い閉架書庫の奥で、大きな書架が左右に動いた後、奥の小さな窓から洩れる光りが差した書架の間を歩いていく家田さんの背中を思い出していた。

 子供の時、あの背中に憧れて図書館に勤める事を夢見た僕は、幸運にも新しい図書館の建設に携わる事が出来た。前の図書館の時に、家田さんが携わったように。

 そして、この新しい鳴滝町立図書館も、きっと以前と同じように地域の人々に愛されながらやっていけると思う。


 こうして、今日も鳴滝町立図書館は開館をする。


                      (了)


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