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図書館物語  作者: 浅見はる
第四章 おばけの紙芝居
21/30

21.加藤館長

 図書館に戻ってくると、休憩室ではリブネットのスタッフ数名が休憩をしていた。僕は何となくその中に入りづらくて自分の事務机で宅配弁当を食べた。

 弁当を食べ終えて、僕が図書館の駐車場の傍に綺麗に咲いた数本の桜の木を見ていると、前方から吉田部長と加藤館長が歩いてきた。


「……丸ちゃん食堂のメニュー、少し変わってたよな」

「そうですか? 気づかなかったな」

「日替わりのメニュー増えてたよ。――あれっ? 長谷川君、どうしたの?」

「いえ……、ちょっと」

「ああ、そうか。スタッフが増えて休憩場所がなくなったのか。まぁ、それはこれから解決してくしかないな」

 吉田部長がそう言って笑うと、隣の加藤館長も微笑んでいた。僕はこの時、加藤館長には仏頂面のイメージしかなかったので少し驚いた。

「でも、ちょうど良かった。図書館だとライブネットがいて話しづらいから、そこの女性センターの会議室を借りて話そうか」

 吉田部長はそう言うと、図書館から百メートルほど先にある女性センターへ入った。


 女性センターの大会議室に入り、長方形に並べられた会議テーブルの内、3人用の長机1台分を移動させると、吉田部長を正面に僕と加藤館長は横に並んで座った。

「よし、これでいいな」

 吉田部長は頷くと、持ってきた紙袋から「図書館委託業務受託者契約仕様書」と書かれた20ページほどのホッチキスで綴じられた書類3部を取り出して、僕と加藤館長の前の机の上に置いた。そして、吉田部長は僕に言った。

「どうだった? 午前中の図書館は」

「特に大きなトラブルもなく順調です」

「そうか、それは良かった。出だしは好調ってとこかな」

 吉田部長は、そう言って満足そうに頷くと話を続けた。

「それで、これが今回の委託業務の最終仕様書になるんだけど、平成28年度はとりあえずこの内容でいく」

「はい、分かりました」

「今年は、いろいろと試行錯誤しながら鳴滝町の図書館にとってどんな形がいいかを探っていくことになると思う」

「来年度以降の指定管理を見据えてという事だからな、長谷川主任」

 隣に座っていた加藤館長が、念を押すように言った。僕が吉田部長を横目で見ると、今日は加藤館長を咎める事はなく吉田部長も頷いた。加藤館長が話を続けた。

「後は、各地の図書室の本の管理は、君が言ってたように業者もやりたがらないから、これは来年以降の課題にする」

「はい、分かりました」

「ただ、これも業者が受け易いようにする為に、どうするかを考えていくという事だからね」

 すると、横から吉田部長が言った。

「まあまあ。加藤君も極端だから。これは議論の余地が無い訳じゃないんだ。教育委員会からも、こないだの大村小学校の不登校児の件とかを考えると、地域で子供を守っていくという意味で、図書館の役割は重要だから職員が必要だという要望もある」

「まあ……、それはそうですね」

 吉田部長の意見に加藤館長も頷いた。

「後は……、選書と除籍は基準をこちらが示してから受託会社が選別する。そして、最終的な決定は町が行う形になる。最近どこかの図書館が、変な中古本を並べられてたなんて問題になってる事もあるから、ここは慎重にやっていこう」

「分かりました」

「まあ、立場によって色んな意見もあるけど、図書館を良くしていきたいっていうのは、みんな同じだから。話し合っていけば解決していくよ、きっと」

 吉田部長がそう言って加藤館長と僕を見た。


 女性センターで吉田部長と別れ、図書館の事務室に戻ると加藤館長と二人きりになった。

 僕が、なんとなく落ち着かずに席を立とうとすると「そう言えば……」と言って、加藤館長は僕を見た。

「あっ、はい」

「俺の姪っ子が、ずいぶん世話になってるらしいね」

「え……っ?」

「弓子……。加藤弓子って言うんだけど」

「あっ、弓子ちゃんの……」

「そう。俺の妹の子なんだ」

「ああ……そうなんですか」

「妹に図書館の館長になるって話したら、君にしっかりお礼を言っといてくれって言われたよ」

「そんな大した事してないです」

「ただ……上司の立場からすると、この件はやり過ぎな気がするがね。図書館利用者の為に病院まで行くなんてね。……まあ、でも伯父の立場からなら感謝しなくちゃな」

 そう言って、加藤館長は初めて僕に対して微笑んだ。


 その日の夕方、作業テーブルに座って黄ばんでボロボロになった家田さんがまとめた除籍基準を書いたノートをテープで補修しながら、間野さんが言っていた事が頭に浮かんでいた。

「彼は今、母親の介護で大変でさ。奥さんも心労で倒れちゃってね。だから、何とか彼と上手くやって、手助けしてあげて欲しいんだ」



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