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図書館物語  作者: 浅見はる
第三章 春の風
16/30

16.年が明けると

 年が明けると、新年初日の今日は、朝から図書館の職員全員で開館の準備をしていた。

 僕は館内に鏡餅を置くと、年末から飾ってあるお正月飾りの門松、しめ縄を確認する為に正面玄関に向かった。他の人も連休中に溜まった返却本の処理や、今日から行われるイベントの準備に忙しく働いている。


 9時になり、僕はいつものように自動ドアを開けようとロックを外す準備をしていると、並んでいる近所の知り合いの老人たちの元気な会話が聞こえてきた。

「やあ、村中さん。おめでとう」

「ああ、おめでとう。今年も歳越せたね」

「はは、なんとかね」

「そういや、紅白どっちが勝った?」

「赤組だな」

「そうか、そうか。あの司会やってたの綾瀬はるかだっけか。あの娘かわいいな」

「やすさん、まだまだ若いねえ。歌手より、そっちばかり見てたのか」

「かみさん亡くなったら、20歳若返ったわ」

「あはは」


 僕は、そんな光景を微笑ましく見ながらロックを外してドアを開けた。

「新年あけましておめでとうございます。鳴滝町立図書館、平成28年開館します」

 そう言って僕はそのまま正面玄関の脇に立ち、いつものように来館者を迎えた。


 朝早くから小学生や、中学生の姿も見える。今日から学校が始まる6日までの3日間、図書館では百人一首や、独楽回しなどの正月向けのイベントをボランティアの老人の方がやっているからだ。

 これは、数年前に田中副館長が企画したもので、講師役を知り合いの老人に頼む事から全て彼がやっていた。今では立派な恒例行事になっている。

 そして、昼からのメインイベントとして、ミニステージで田中副館長のお正月バージョンの紙芝居イベントを行う予定にしていた。


 僕が玄関に立っていると、見慣れた老人が男の子に手を引かれてやってきた。

「おめでとうございます。健さんのお孫さん?」

「うん、ちょうど東京に住んでる息子が、家族連れて帰ってきてるからな。孫が本読みたいって言うから連れてきた」

「そうですか。あ……っ、昼からの独楽回しの講師お願いしますね」

「オッケー、オッケー。任せといて」 

 そう言いながら、老人は子供に手を引かれながら入っていった。


 そして事務室に戻ると、早朝から役場での仕事始めの式に出席していた吉田館長と田中副館長が戻ってきた。そして、そのまま吉田館長の年始挨拶の為、カウンター業務をしているパート以外の職員は、ミーティング室に集合した。


「今年は図書館も色々変わる年ですので、みんなでがんばっていきましょう」

 吉田館長の後には、田中副館長が挨拶をした。

「私事だけど、今年3月で一応定年となります。職員としては残り3か月となりましたが、元気よくやっていきますのでよろしくね」

「一応って……、まだやる気満々だね」

 僕の隣にいた吉岡さんが横田さんに耳打ちすると、彼は口元に笑みを浮かべた。


 そして休憩時間に昼食を食べていると、隣で食べていた田中副館長が話しかけてきた。

「今日は、昼からの紙芝居は人多そうだね」   

「そうですね、午前中も開始時間の問い合わせが数件あったみたいですしね」

「ほお、それは困ったなあ」

「困ったような顔になってませんよ、副館長」 

 吉岡さんが、薄笑いをしながら言った。

「あはは、吉岡さんにはかなわんな。……さて、じゃあ準備するかな」

 そう言って弁当を片付けると、田中副館長は作業室へと入っていった。


 こうして、この日の午後から行われた田中副館長の紙芝居は、盛況のうちに終わった。

 紙芝居が始まる頃に、京子が間野部長と一緒に図書館にやってきたので、パートの間ではにわかにざわついていたようであったが、僕は無視して紙芝居の準備をしていた。この時、僕は間野部長に年始の挨拶をしたが、その様子を見る限り、京子との関係にはまだ、気づいていないようであった。


「いやー、盛り上がってましたね。さすが集客力ありますね」

 この日の夕方、横田さんがそう言うと、田中副館長は満更でもない様子で言った。

「今日は、うちの孫も来てたからね。ちょっと気合が入ったよ」

「お孫さんにも、いいとこ見せれて良かったですね」

 僕がそう言うと、田中副館長は嬉しそうに頷いた。



 正月のイベントが終わると、その後何事も無く1月は過ぎ、すでに29日の金曜日になっていた。この日、僕と田中副館長が休憩室で昼食の弁当を食べていると、昼過ぎから本庁に呼ばれていた吉田館長が戻ってきた。

 僕は午前中に頼まれていた事の報告があったので、昼食の手を止めて事務室に行くと、吉田館長の目は充血していて、いつもと様子が違っていた。

「館長、何かあったんですか?」

「あっ、ああ……。うん」

 そう言って、吉田館長は曖昧な返事をして、自分の机に座った。


「何か、良からぬ事が起こったみたいだね」

 僕が吉田館長に報告を終えて休憩室に戻ると、田中副館長が小声で僕にささやいた。

「……そうですね」

 そして休憩が終わり、僕が休憩室から出てくると、事務室から吉田館長が言った。

「田中さん、ちょっとそのまま休憩室で待っててもらえる。話があるから」

「あっ、……はい」

 そして、僕はこの日、午後からの大村公民館図書室での打ち合わせの為外出した。


 夕方、僕と吉岡さんが大村公民館の用事を済ませて戻ってくると、事務室には重い空気が漂っていた。

「なんかあったんですか?」

 吉岡さんが田中副館長に小声で尋ねると「う、……うん」と、彼は曖昧に応えた。

「長谷川君。悪いんだけど、パートさん全員集まってもらうから、日下部さんとカウンターを代わってもらえる?」

 吉田館長が僕に頼んだ時の表情は、いつもと違い硬い表情だった。

「はい、分かりました」

 僕が階段を上がっていく時、すれ違った吉岡さんを見ると彼女も心配そうな顔をしていた。


 この時、僕は図書館の業務委託の計画が、いよいよ動き出したのだろうと思った。そして、カウンターを日下部さんと代わり、夕方の混雑した業務をこなしながら、地下1階で行われている吉田館長の話が気になっていた。



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