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図書館物語  作者: 浅見はる
第三章 春の風
14/30

14.踊る絵本

 図書館フェスティバルが終わると、図書館全体も一息ついたように落ち着いた雰囲気になる。しかし、僕は少し浮かれた日々を過ごしていた。あれから、京子さんと東武動物公園のウインターイルミネーションを観に行ったり、食事にも一緒に行った。

 そんなある朝、朝礼が終わるとパートの浅田さんに声をかけられた。

「あの……、長谷川さん」

「あっ、はい」

「点字絵本って、増やせないですよね」

「本の購入予算が削られてるし、今は難しいかな」

「そうですよね」

「一時期、ボランティアで点字シートを作ってくれる方いたんですけどね」

「ああ、木内さんですね」

「うん、そう。でも、なにかあったんですか?」

「うちの近所の子が視覚障害者で、その子のお母さんと話したんですけど、図書館に点字絵本が少なくて読める本がないって言ってましたので」

「そうでしたか。2,3冊くらいなら増やせるかな」

「私が、読み聞かせ室で読んであげようか」

 隣で話を聞いていた田中副館長が言った。

「えっ、でも……」

「いいよ、絵本や紙芝居読むのは僕の趣味だからね。それに、図書館は全ての人に本を楽しんでもらわないとね」


 後日、図書館にある読み聞かせ用の個室に、浅田さんから紹介された持田さん親子がやってきた。

「すいません、今日は」

「いえいえ。君、お名前は?」

 田中副館長は、男の子に優しく声をかけた。

「持田隼人」

「隼人君か。よろしくね、私は副館長の田中です」

 そして、田中副館長が絵本を読み始めると、隼人は興味深そうに物語を聴いていた。


「どうだった? 長谷川君」

 持田さん親子が帰った後、田中副館長が僕に訊いてきた。

「いや、喜んでましたよ。隼人君」

 僕はそう言ったが、田中副館長は腕組みをして納得してない様子だった。

「どうしたんですか?」

「うーん、今日の隼人君、子供たちにいつも紙芝居読んであげる時の喜び方じゃないんだよな」

「そうですかね」

「ちょっと読んでみるからさ、今度聴いてくれない?」

「ああ、いいですよ」


 そして、月曜の休館日の朝、僕と田中副館長、横田さん、吉岡さんの4人が図書館の休憩室にいた。

「悪いね、休みの日に出てきてもらって」

「ほんとですよ、高くつきますよ」

 吉岡さんがそう言うと、田中副館長はテーブルにある缶飲料を差し出して言った。

「どうぞどうぞ、これ飲んでよ」

「またミルクティーじゃん。私はレモンティー派だって言ったでしょ」

「こんなに美味しい飲み物ないけどなあ。まあ、しっかり今日はランチをご馳走しますよ」

「やったー」


 そうして、田中副館長が絵本を読むのを、目をつむってみんなで聴いた。

「……どうだった?」

「悪くはないですけどね」

 横田さんが田中副館長に言った。

「でも……」

「何? 吉岡さん」

「目をつむって聴くと、情景が浮かんでこない場面がありますね、大きさとか広さとか……」

「うん、そうだろ? 僕もそう思ったんだよね」

「そうだ。ほらっ、こないだ副館長言ってたじゃん、紙芝居読む時、抑揚がどうとか……」

「ああそうか、読み方か……。よし、ちょっと変えてみよう」

「僕も手伝います。なんか、やってみたくなりました」

 横田さんが珍しく目を輝かせていた。

「よし。じゃあ君にも少し読むパートを分けてあげようかな」

「え……っ。あっ、はい」


 翌日、僕は浅田さんにこの件を話した。

「あっ、そうですか。それは持田さんも喜ぶと思います。こないだ、盲学校に一緒に通ってる友達にも聴かせたいって言ってたから、一緒に誘ってもらってもいいですか?」

「もちろん、いいですよ」

「じゃあ、伝えますね」


 それから、田中副館長と横田さんは、仕事が終わると毎晩遅くまで絵本を読む練習をしていた。

「へえ……。横田さん、がんばってるじゃん」

 そう言って、差し入れに横田さんの大好きな河野屋の大福を持ってきた吉岡さんが彼を見つめていた。

「そうだね。きっと今度は上手くいくよ」

 僕もこの時、横田さんの意外な一面に感心していた。


 そして、隼人と盲学校の友達に絵本を読む日になった。

「みんな、今日はとても楽しみにしてました。よろしくお願いします」

 隼人の母親がそう言うと、子供たちの親も一緒にお辞儀した。

「じゃあ、今日は人数も多いから、ミーティング室で読みますので、こちらへどうぞ」

 僕が部屋へ案内すると、田中副館長と横田さんはすでに準備して待っていた。

「じゃあ今日は楽しんでいってね」

 田中副館長がそう言うと、子供たちは嬉しそうに席についた。

 そして、田中副館長と横田さんが絵本を読み始めた。


 おばけの男の子ポーは、秋になり赤くそまった山の上をご機嫌に歌いながら飛んでいました。

「やーまは、しろーがね、あさひをあーびいーてー♪」


 大声で歌う横田さんの声を聴いて、子供たちは楽しそうに笑った。


 ……すると、たくさんの木の間を、大きな動物がのっし、のっしと歩いている姿が見えました。

「なんだろう? なんか大きな動物がいるぞ」

 ポーは、山の中に入っていきました。そして動物を探していると……、毛がたくさん生えた大きな動物が歩いていました。

「あ……っ、クマの親子だ」

「ママ、お腹すいたよう」

「もう少し待っててね」

 よく見ると、クマの親子はとてもお腹を空かせて困っています。

 

「お腹空いて、クマたち冬眠できないんだね」

 子供たちは興味深々に田中副館長の話を聞いている。

 そして、物語は最後の場面となった。

 

 ……ポーが「揺れろっ」と思いながら、大きな木を揺らすと枝が揺れ始めました。

 ポーは、おばけだけど少しの間だけなら物に触れることが出来ました。

 ゆっさゆっさ ばさばさばさー ぼてぼてぼてー

 そうして、たくさんのどんぐりが落ちてきました。

「わあー♪」「やったー♪」

 子グマたちは、ぼりぼり食べ始めました。

「ああ、良かったわ。これで安心して冬眠できる」

 母クマは、子グマの食べる姿を見てホッとしています。

「なんか、みんなが食べてるの見ていたら、僕もお腹空いちゃったよ。帰っておやつたーべよ♪」

 ポーは雲の上にある家に飛んで行きました……おしまい


 子供たちの楽しそうな顔を見て、田中副館長と横田さんは嬉しそうに目を合わせた。この時、僕の隣にいた吉岡さんの目は潤んでいた。


「今日はありがとうございました。隼人も、とても楽しそうでした」

「これからも、図書館に来たら読んであげるからね」

 田中副館長がそう言って隼人の頭を撫でると、隼人は嬉しそうに頷いた。

「なんだか、今日の絵本、文字が躍ってるみたいだったわ」

 僕の隣にいた吉岡さんが、嬉しそうに言った。


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