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人型殺戮兵器《ウィザード》と最強の銃使い  作者: 団栗珈琲。


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第二兵舎

   ✕   ✕   ✕   ✕

「―――。――い。―—い。おい。おい!」

 誰かが呼ぶ声が聞こえる。

 その声によって微睡みから意識が浮上する。

「ん、んあ?」


 臭い。酸のようなそんな匂いが鼻を刺激する。

「よくゲロまみれの服の上で寝れるな」

「うわ……。きたな……」

「お前が吐いたゲロだがな」

「え? なんで私がゲロ吐いてるんですか?」

 ルミは心底不思議そうに問いかけてきた。


「浴びるほど酒を飲んでたからだな」

「私、お酒苦手あまり得意じゃないのに……」

「じゃあ、言ってくれよ……。そうなら勧めなかったぞ」

「そもそも私、飲んでいい年齢じゃないですし」

 そんな生真面目なことを抜かす。

「ここは戦場だ。ガキだろうジジイだろうが、戦意のねえやつには覚醒剤をぶち込んで無理やり戦わせるような終わってる場所だ。ま、楽しけりゃいいんだよ。現実から目を背けねえと頭おかしくなっちまうからな」

 俺がそういうと、ルミは目を背けた。


「私は戦場のことはよく知らないです。いわれて、魔法を使って、戻るだけだから。でも嫌われるのわかる。上から魔法を使って逃げ帰ってるから。だからあなたも私のことが嫌いなはずなんです。なのになんであなたは私の話を聞いてくれたんですか?」


 そんなしょうもないことを真剣なまなざしで聞いてくる。

(まあでも、そんなしょうもないことでさえも答えに迷ってる俺はもっとしょうもないのかもしれないけどな)


「まあ、なんだ。たとえ話というか、おとぎ話みたいな感じで聞いてくれ」


 少し昔、ヴァルムヒト魔導帝国とクルビュリーア技術大国が開戦したころ、銃しか能のないやつがいた。

 そいつは上からも、動機からも散々馬鹿にされていた。

 そいつはそれがどうも気に食わなくて、銃一本で多大な戦果を挙げることはできるんだと息巻いてクルビュリーア技術大国に先陣切って特攻したんだ。


 ま、結果はお察しの通り近距離でショットガンでやりあえば、近くの近接魔術師に剣型ブレードタイプの武器でやられちまうし、かといって、遠距離でスナイパーライフルとかを使えば遠距離狙撃魔術師に銃型ライフルタイプでやられちまう。


 まあ、そいつがでたてのぺーぺーで銃の良さを何一つとして理解できていなかったから仕方なかったんだろうけどな。

 そいつは銃の撃ちすぎで居場所が割れて、敵の魔術狙撃氏に殺されそうになったんだ。

 そのときだったんだよ。俺の目の前に色素の薄い、青みがかった紙がふわりと凪いだ。


『守護するものよ。愚かしくも幼気な彼に加護を―――!』

 それは魔術詠唱というにはあまりにも聖なるものであった。魔、という単語をつけるにはあまりにも静謐なもの過ぎたのだ。心の醜い部分がすべて浄化されるようなそんな奇妙な感覚に襲われた。


「ありがとう……、ございます。すみません、死ぬところでした。わざわざ助けてもらって……。自分の未熟さが招いた結果なのに」

 そいつがそんな馬鹿なことを口走ると女性はにへらと朗らかな笑みを浮かべて、言った。


「君、いくつ?」

「十五です」

「子供じゃない!? 国はいったい何してんのよ!」

 明らかに怒っているようなそんな雰囲気を感じた。


「俺なんてもう年上なほうですよ。下だと十とか九とかいますから」

「っ!?  本当? それ」

「俺が嘘ついてどうするんですか」

 女性は、うーん。それもそうだよねぇ。と一人でぶつぶつ呟いていた。

 すると、女性はうん。とうなずいて、男に向かった。


「シュッツ=エンゲル。天使位十二階の守護を司る天使。それが私。君たち戦場の人間からは人型殺戮兵器ウィザードって呼ばれてるかもね。君の名前は?」


「エルドリース。エルドリース=クロックリックです」

「エル君ね。ま、覚えておくね。もう一度会えたら、私のこと呼んでね。シュッツさんで伝わると思うから。じゃあね。私はまた行かなきゃいけないから。ばいばい」


 そいつがちょうど旧第二兵舎に配属されたばかりの話だ。


「———という話だ。どうだ? おもしろかったか? ま、面白いわきゃないよな。その情けねえ男が俺だ。でも、俺は人型殺戮兵器ウィザードに命を救われたことがあるんだ。だからお前らを一概に悪って言える立場じゃねえんだよ」

「だからって、話しかける理由にはならないはず。助けるならまだしも」

 これだけ長い自分が足りをして恥ずかしい思いをしたのにもかかわらず、こいつはまだそんなことをいう。


「まあ、なんだろうな俺は人型殺戮兵器ウィザードに対する排除意識みたいなのが薄いし、あの時のお前があまりにも消え入りそうな顔をしてたからってのもあるんだよ。あれで話しかけもしないほうがどうかしてると思うぞ」


「そう、なんでしょうか? 私にはわからないですけど」

 そんなことを平然と言ってのけるルミの姿に俺は何とも言い難い感情を抱いた。

 随分と長々と話してしまったせいか。月が傾き始めている。


「長々話してすまなかった。じゃあ、また明日」

 俺がそう告げて、自分の兵舎に戻ろうとする。

「ちょっと待って……ください。あの、私たち黒い天使の魂(ウィザード)は―――!」

「なんだ?」

「いえ、なんでもないです……。すみません。おやすみなさい」

「ああ? おやすみ……」


 そういってルミは踵を返して旧第二兵舎のある場所へと戻っていった。


   ✕   ✕   ✕   ✕


 それにしても黒い天使の魂(ウィザード)? なんだ、それは……

 刹那、バチッと雷属性の魔法が放たれる音が鳴る。

 カツカツと革靴の音を鳴らしながら、喪服のような黒いスーツに身をまとった金髪の女が暗い笑みを浮かべている。

「あの娘にはあとで説教が必要だね。……さて、かつて最強と言われた銃使い。私と戦おうじゃないか。天使位一階、破壊を司る天使。ツェルシュテーレン=エンゲル。深奥に触れる可能性のあるやつ、危険分子は消しておくというのがうちのやり方でね。悪いけど、死んでもらうよ」


 そういってツェルシュテーレンはにやりと笑った。

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