轟く爆発音
クアドラプルフォー。確かに第四奇襲空襲の時も無事だったか。
だから俺は助かったんだ。
第二兵舎なのにもかかわらず「0000-0000-00004」なんて数字が存在しているのは第一兵舎が設立された当初はここまで長引くとは考えられておらず、ナンバリングがなされていなかったのだ。
元第一兵舎の人間は第三兵舎へ。少年兵はそのまま第二兵舎で、そんな感じだったことを覚えている。
旧第二兵舎に踏み込んだ瞬間、鉄筋コンクリートの鉄筋だけを晒した建物。
一部、鉄筋すらなくなっていた。無惨も無惨。
場所にするとシングルフォーの辺りだろうか。
まあ、中心爆撃地だったからしかないといえば仕方ないのだが。
爆撃によって凹凸だらけの全く新しい建物へと様相を変えていた。
笑えすりゃしないな。
斬新な建物と笑ってやる器量も気概も度胸も今の俺にはない。――いつか笑えるようになるのだろうか。
それまで生きてられるかもわからねえがな。
「はっ」
そうやって、俺は自傷気味な笑いをこぼした。
✕ ✕ ✕ ✕
―――十二年前、ヴァルムヒト国軍隊第二兵舎。
「にしても、お前の兵舎の番号すげーよな。クアドラプルフォーだろ? 四零、四零の四零四だろ? どれだけ自分の兵舎告げるのに四使うんだよ」
ルレイト=ハッカーネスト。二等兵。
「知るか。上層部がそこにしたんだろ」
エルドリース=クロックリック。上等兵。
「いや、奇跡だって。これは神様の思し召しだね」
「んなわけないだろ。偶然だよ、偶然。レイト、何度も言ってるじゃないか」
「お前はそう言うけどなあ。俺は絶対に奇跡だと思うんだよ。だってお前、生還率1%の任務でも平気な顔して帰ってきてるじゃねえか。だからお前は生者なんて呼ばれるんだよ」
「そりゃ運が良いだけだ」
「運も実力のうちって言うだろ? お前は実力があるんだよ」
「そうなのか?」
「そうなんだよ。だってお前、俺と違って上等兵じゃねえか」
「前の戦闘で生き残ったやつはみんな上等兵に昇格したじゃねえか。お前は骨折で来なかったから二等兵のままなんだよ」
「随分とひでえものいいじゃねえか」
そういってレイトは笑う。
―――次の第三次クルビュリーア第一戦線奪還作戦でレイトは死んだ。
✕ ✕ ✕ ✕
第三次クルビュリーア第一戦線奪還作戦決行から八日。
『ウーウーウーウーウー!』
とめどなくながられる警報の音。
照明が赤く点灯し、敵機の接近を報せる。
「やっべえ! お前ら、逃げろぉぉぉぉぉぉ!」
そう叫ぶ声が聞こえて、俺は慌てて外に出る。
『ウーウーウーウーウー!』
赤い照明は点滅を繰り返す。
クルビュリーア技術大国によるヴァルムヒト第一戦線付近奪取奇襲空襲が決行された。
―――刹那、爆発音。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
―――着弾、断末魔。
「奇襲だぁぁぁぁぁぁぁ! てめらぁぁぁぁ! 出るなぁぁぁぁ! 砲撃に餌食になるぞぉぉぉぉぉぉぉ! シングルフォーは出ろ! 逃げろ! 空爆中心地だ! さっさと出やがれ! 死にたいのかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そんな叫び声がまだ薄っすらと聞こえる中、
着弾、着弾、着弾、着弾着弾着弾着弾。
断末魔、断末魔、断末魔断末魔断末魔。
「いやだ! 死にたくない! あああああああああああ!」「やめろ! やめろ! やめろぉぉぉぉぉ! あぎゃああああああ!」「まだ、まだ死にたくない! いやああああああああああああ!」情けない叫び声だけが反響して聞こえてくる。
『ザザッ、ザー』
無線機からノイズの音。
『通常回線からの無線通信。アリアレールド少佐からヴァルムヒト国軍隊第二兵舎に告ぐ、トリプルフォーは待機。ダブルフォーは気を見てトリプルフォーに移動。シングルフォーはさっさと逃げろ! クルビュリーア技術大国の空襲だ!』
それだけ言って、無線機は何も言わなくなった。
待機。
そういう命令だ。遵守するだけだ。
それ以外の選択肢はない。
✕ ✕ ✕ ✕
夜明け。朝日がヴァルムヒト国軍隊兵舎に差し込む。
『ザザッ、ザー』
無線機からなるノイズ音。
『特秘回線から無線通信。アリアレールド少佐からヴァルムヒト国軍隊第二兵舎に告ぐ。クルビュリーアの爆撃機の撤退を確認。兵舎諸君は国軍隊本部まで移動。以上!』
命令だ。外に出るしかない。
俺はそうして、外に出る。
朝日に滴る大量の血に乱反射する。
赤黒い血はとても輝いて見えた。
焦げた人ともわからぬような肉塊がそこらに放置されている。
回収する意味もない。
行きている人間が、通信を聞いてのそのそと外へ出てくる。
「あ、ああ……」
肉塊を見て、唖然と呆然としている人間も存在する。俺はその限りではない。
もう慣れた。というのが正しいのだろうか。
人の死体を見ても何も感じなくなってきた。
齢十四にしてこれは流石にひどいな。なんてそんな事を考える。
死体なんて見慣れるものじゃない。
それが俺には理解できた。だが、慣れてしまったものは慣れてしまったのだ。
仕方のないことだ。そういうものだと割り切って考えるしかないのだ。
そんな事を考えながら、俺は国軍隊本部まで歩みを進めた。
✕ ✕ ✕ ✕
「あー。嫌なことを思い出した。あんときゃ、死体見ることには慣れてたけど、戦争ってもんをよくわかってなかった頃か。そりゃあ今もこんなトラウマみたいに刻み込まれてるよな。毎日がまだ楽しかった頃だしな」
独り言を吐きながら歩みを進める。
すると、自分が使っていた旧第二兵舎|0000-0000-0000《トリプルフォー》が見えてきた。つながったコンクリート造のアパートの様相のそれは懐古の感情が表立ってきても不思議ではない、当時そのままの見た目だった。
「着いたぞ」
俺はルミに声を掛けた。




