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人型殺戮兵器《ウィザード》と最強の銃使い  作者: 団栗珈琲。


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4/6

帰路での話

 ものすごく気分が悪い。どうしようもなく。

 それもこれも背中に居る女のせいだ。

「えぇぇぇぇるぅぅぅぅぅ」

「なんだ?」

「えるのせなかあったかいれぇ」

「そうか」

 結局、俺はルミをおんぶして歩くことにした。

 背に腹は代えられないので仕方ない。えいい案も出なかったので最終手段として強行突破に出たのだ。


「えるのせなかにいるとあんしんしてきりゃあ」

「ならよかった」

「える」

「なんだ?」

「やばいかも」

「え?」

 るみはそんなこ――――

「オロロロロロロロロロロロ。ヴェヴエッヴォエッ」


 ――ビシャッ。限りなく嫌な感触が軍服越しにも十分に伝わってくる。

「しゅっきりした」

 などと当の本人はのたうち回る。

「…………………………………………」

 俺は茫然自失とするしかなかった。服がゲロまみれになったのだ。仕方のないことだと思う。だが軍服は軍に配備されてから一枚しかもらえないのだ。

 ゲロ軍服を洗うことを考えると、酷く億劫な気分になった。

 言うならば最悪だ。本当に。


「あれ? 私今――」

 ゲロによって酔いが醒めたのかキョロキョロと当たりを伺っている。

「あれ? このゲロ――」

「ああ、お前のゲロだ」

「!?」

「何を驚いてるんだ。自己申告してたじゃないか」


「すみません!」

 背中越しに謝る声が聞こえる。

 姿は見えないが、全力で謝っているということだけわかる。

「いい。別に洗えばいいだけだからな」

「いや、でもそういうわけには……」

「いいんだよ。ゲロの一つや二つぐらい」

「申し訳ないですよ」

 そんなことをいってくるが、起きたことはどうしようもないので仕方がない。過去ばかり振り返っていても何にもならないのだ。


 もう割り切って考えるしかない。そうしたほうがまだ自分を保てる。

 兵舎に戻ってゲロ軍服を鬼のように洗うことだけだ。

「酔いが醒めたならもういいだろ。どこだ? 兵舎。番号だけでいいぞ。だいたい頭に入ってる」

「それじゃ、お言葉に甘えて……「|四零、四零の四零三《0000-0000-00004》」です。お願いします」

「0000-0000って、旧兵舎? 使用再開したのか?」

「そうですか。この零、邪魔だと思うですけど」

「新兵舎じゃ使うんだよ。だから旧兵舎の表示の零がそんなに増えたんだろうな。じゃあ、旧兵舎に向かうぞ」

「はい」

 それにしても旧兵舎か。聞いたの何年ぶりだ?


 九年前に使用停止宣言が行われたはずの旧兵舎。なんせ二年前まではクルビュリーア技術大国の占領地だったのだから。

 魔法大戦開戦時、ヴァルムヒト魔導帝国五年の劣勢。クルビュリーア技術大国五年の優勢。その時に奪取されたヴァルムヒト魔導帝国旧兵舎第一各区。


 ヴァルムヒト魔導帝国、旧第一戦線。

 旧兵舎はヴァルムヒト魔導帝国が劣勢に転じ、攻撃を受け始めたときに閉鎖された。

 だが三年前、ヴァルムヒト魔導帝国が優勢に転じたときにクルビュリーア技術大国から奪還したのだ。

 だが、奪還した後に使用されているとは夢にも思わなかった。

 奪取されたときに新兵舎が造られ、ヴァルムヒト魔導帝国軍人は新兵舎に住まうことになっている。


 そもそも、旧兵舎の存在を知っている人間のほうが稀だ。

 なんせ、知っているものは皆、戦争で死んでいるのだから。

 俺は数少ない旧兵舎の存在を知っている人間の一人だ。

 兵役十三年。開戦時から務めている。開戦時の俺は少年志願兵だったか。

 あれから十三年。随分と経ったし、随分と死んだ。

 初めの少年志願兵の頃からの知り合いはもう居ない。


 もう思い出さないようにしてたんだけどな。

 それでも、ここに来ると思い出してしまう。

 それにしても「|四零、四零の四零四《0000-0000-00004》」か。

 随分と懐かしい数字の羅列だ。

 ―――全く。奇妙な縁だな、これは。


 クアドラプルフォー、四つの四。

 0000-0000-00004を呼称するときの略称のようなものだ。0000-0000-00009はトリプルフォーシングルナイン。そういうふうに呼称していたなんて昔のことを思い出す。


 まだ楽しかった頃の思い出だ。

 それと同時に戦争が地獄だということを思い知ったときだ。

 ヴァルムヒト魔導帝国は弱小国の成り上がりを夢見ている。クルビュリーア技術大国に勝てると盲信している。

 実際そんなことはないというのに。


 ここ十三年でヴァルムヒトとクルビュリーアは劣勢と優勢を繰り返し続けている。

 失った命は何万では表せない。

 上からしてみれば有象無象の数の上下なのかもしれないが、下からすれば終戦を今か今かと待ち続けている。


 しばらくそんな事を考えながら、旧兵舎への道のりを思い出しながら歩いているとあっという間に旧第二兵舎に到着した。

「着いたぞ」


 俺はルミに声を掛ける。だが、返答はない。

 耳を傾けてみるとすうすうと寝息が聞こえてきた。

 こんな中寝れるのも大したものだが、よくゲロの付着した軍服に頬をこすりつけながら寝られるなと関心さえしてしまった。

 寝ているのなら、起こすのも悪い。旧第二兵舎の入口まででいいかと思っていたが、クアドラプルフォーまで連れて行ってやるか。


 俺はそう考えて、旧第二兵舎の敷地内へと足を踏み入れた。

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