第一戦線
『敵兵、魔法射撃開始!』
偵察兵の無線魔法会話による声を聞きながら、
「三、二、一。撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
俺は声を張り上げる。
刹那、降魔。
ドカン。ドカンと響く轟音。
パシュッ。パシュッと空気を裂く、風魔法〈鎌鼬〉の重い音。
横に居た魔術師、司令官達の断末魔。
同時に上がる紅い鮮血。血飛沫。
全く。気分の悪いこと、この上ない。
我がヴァルムヒト魔導帝国とクルビュリーア技術大国は十数年前開戦し、今もなお戦争は続いている。
ことの発端はヴァルムヒト魔導帝国で第一階位の天使。「原初の殺戮兵器」が生まれたのだ。
今まで発見されてきた物理法則すべてを無視するかのような圧倒的な力。
いまは魔導帝国などと呼んでいるが、もともとはヴァルムヒト帝国だったのだ。
だが、魔法という圧倒的なまでの力は人を狂わすには十分だった。
だからこそ、今まで弱小国の名をほしいままにしてきたヴァルムヒト魔導帝国は圧倒的な強豪国であるクルビュリーア技術大国に戦争を仕掛けるということをしたのだ。
周辺国は無謀な挑戦だと嘲笑ったが今もこのように戦うことができている。
この戦争を周辺国は「魔法大戦」と呼んでいるのだそうだ。
魔法同士がぶつかり合っているわけでもないが、今まで魔法など使われてこなかったわけだから、その名前にも納得だろう。
次また同じような戦争が起きたら第二次魔法大戦とでも呼ばれるのだろうか。
だが、そんなことは遥か高みで見物を決め込んでいるお偉いさん方の評価でしかないわけで、ここ、魔法戦争第一戦線は疲弊を重ねている。
なんといっても分が悪いのだ。
いくら大気中にあるエネルギーを攻撃エネルギーに変換していて、殆ど無限だと言っても。その行動を行うのが人間ならば必ず疲弊というものは訪れてくる。
上から見れば大差ないのかもしれないが、現場では僅かに、しかし確実に疲弊が蓄積されていっている。
それに加え、クルビュリーア技術大国は無人戦闘機の施工に着手したというのだ。
我がヴァルムヒト魔導帝国が無尽蔵に現る無人機になすすべなどあるわけがない。
大人しく敗北を認めればいいものをとは思うが、上から見ればまともに戦えているのだ。戦争は当分終わらないだろう。
当然、誰も死にたくない。だからこそみんな必死で戦う。
生きるために。全力で泥臭く戦い続ける。
その意思のおかげでなんとか前線を保っているのだ。
だがそれも時間の問題なのだろう。
ここに来てから常に気分が悪い。
それもまあ、当然なのだが。
飛行型魔法具が人型殺戮兵器を乗せてやってくる。人型殺戮兵器だけではなく時限式魔法具を撒き散らして。
「天使様のお出ましだ」
皮肉りながらも俺は口にする。
――天使。戦場では人型殺戮兵器と呼ばれている。
一般的な魔術師は司令官と扱いが変わらない、若しくは下なのだが軍上層部が天使と呼ぶ魔術師は戦場の兵士から、かなり嫌われている。
上からの命令とはいえ、周囲に――それも敵味方関係なく莫大な被害をもたらしていく。そんなことをすれば敵味方から嫌われるのはわかりきっていることだった。
だから、そんなことで僻んでも仕方ないことなのだが、嫌いなものは嫌いなのだ。
そんな理由でも嫌われるのは嫌われるし、迫害も度々行われるが、国が全力を賭して守っているため、俺達兵士も迂闊に手を出すことができな存在。
言うのならば、腫れ物だ。
勿論、俺も例外ではない。疎ましくは思っているが、特段危害を加えない有象無象の一人。
現場で魔術師に命令を下す司令官の一人。
司令官なんて肩書が付いているが、特段高い地位に居るわけでもない。なんせ、戦場にまで駆り出されているのだから、当たり前と言われれば当たり前なのだが。
そんな事を考えていると、後方から「人型殺戮兵器が魔法撃つぞ! 離れろぉ!」と、叫ぶ声が聞こえる。
その声を耳にとどめた俺は、慌ててその場から移動する。
人型殺戮兵器は豪奢な台車のようなもので運ばれていた。
その血に汚れた汚れた面を拝んでやろうと顔を覗き見た。
透き通るような綺麗な白髪。すべてを見通すかのような白玉の目。畏怖の念すら抱きそうになるほど人外じみて白い肌。それをすべて活かすかのような端正な顔立ち。強調しないスレンダーな体型。
そして、その透き通った頬には一筋の涙が流れていた。
―――そう。大量虐殺の人殺しにしてはあまりにも、綺麗だった。
「―――っ!?」
その美貌に飲まれていたのか、数秒俺は見惚れていた。
美女は唇を開き、人を殺す言葉を紡ぐ。
「〈我が掌の鼓動に、声に、釣られて参れ。我が姿に魔の力を暫し行使することに依って、この世界に束の間の安らぎと、我が生命を捧げよう。凍てついた氷柱が割れ目と共に堕ちゆくように、落ち行くように。魔力もまた凝縮された後、割れ目と共に四散するであろう。轟氷爆散〉」
そうして、戦場はナイフのように飛び交う氷によって。
氷の色とは真逆の熱を持った飛び散る赤と、死に際のなんとも情けない断末魔が響いて反響していた。




