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余計な部品

作者: 石戸龍一
掲載日:2025/09/04

 ある日、僕は奇妙な物体を拾った。それは無数の歯車と、二本の管と、一枚の電子板を組み合わせた部品のようなもので、周りを鉄の殻が覆っていた。大きさは三十センチほどで、重さは二キロくらいだろう。風雨に晒されたためか、外殻の一部は錆びていた。

 僕が奇妙に思ったのはその形状だけではない。ここは田んぼしかない田舎道で、この複雑な金属製の物体には似つかわしくない場所である。農業機械ならいくつかあるが、工場などは全くない。トラックが運搬中に落としたのかもしれないと思ったが、こんな細い道はそもそも通れない。リアカーくらいならいけるだろうが、こんな変な機械を運ぶようなもの好きな農夫がいるとは思えない。なぜ、こんなところにこんなものが落ちているのだろう?

 とりあえず、僕はこの部品を”X”と名付け、家に持ち帰ることにした。僕は機械に関しては完全な素人である。その分野に詳しい友人を呼んで調べさせることにした。

「うーん、これは……」

「何かわかったかい?」

「いや、これだけではなんとも……。おそらく、何かの制御盤のようなものだとは思うが、何の部品なのかはわからないな。はっきり言って、全然見た事ないんだよ。会社に行ってカタログを見ればわかるかもしれんが……」

「Xに何か書いてないかな。ほら、型番とかあるだろ?」

「見た限りはそういったものはないな。分解して構成物を一つ一つ調べればわかるかもしれないが、元通りに組み立て直せるかはわからないぞ?どうする?」

「やめておこう。壊しちゃうわけにはいかないからね。同定は諦めるしかなさそうだ」

 僕はXを眺めつつ、ため息をつく。

「制御盤っていうのはこういうものなのかい?」

「いや、大きすぎるんだよ。そりゃ、昔の制御盤だったらこんな大きいのもあるかもしれない。でも、今は二千二十五年だぜ?今じゃみんな小型化が進んでて、指先に乗るくらいのものだってあるんだ。Xのサイズははっきり言っておかしい。よほど旧型の機械の部品なのか、それとも……」

 友人は言葉を濁した。言いたくないというよりは、言うのが馬鹿馬鹿しくてためらっている感じだった。

「それとも?」

「このサイズの制御盤に見合った馬鹿でかい機械かもしれないって思ったんだ。でも、ありえない。Xにふさわしい機械があるとしたら、そうだな……スペースシャトルくらい大きくないとな。って、そんなわけないか」

「そりゃそうだろう。ここは電車も通らないような田舎町なんだから。スペースシャトルだかロケットだとか知らないけど、そんなハイテクなものとは無縁の世界だからね」

 僕と友人は顔を見合わせて笑った。田んぼの真横を走るスペースシャトルを想像して、その滑稽な光景にクスリときたのだ。

「Xは……どこから来たんだろうな?」

「一番可能性があるのは、空だな」

「空?」

「空からの落とし物ってわけさ。それなら、Xが辺鄙な田舎にあったのも説明できるだろ?でも、飛行機ってこういうものも運ぶのかな?だって、あいつらは人を運ぶのが仕事だろ?」

 そう言って、僕の友人は去って行った。どうやら機械のプロでもわからないような代物らしい。当然、僕にXの正体がわかるわけもなく、数日が経って行った。

 ある日、僕はとある不安に駆られた。友人が言うには、Xは何かの制御盤らしい。となれば、この部品が収まるところの本体は、今頃は制御盤無しで稼働してしまっているのかもしれない。途中で停止するくらいならまだマシだ。下手すれば大きな事故に繋がるかもしれない。

「ははっ。それは考え過ぎだよ」

 僕の同僚は僕の不安を笑い飛ばした。

「いいかい?現代の機械ってものは、多少部分が欠けたってちゃんと動くようにできているんだ。余裕を持たせるって言うのかな。そこら辺はメーカーがしっかりと設計してあるのさ」

「でも、これは制御盤だぜ?そんな大事なものが無くても大丈夫なのかな?」

「よし、じゃあ俺の話をしてやろう。ある日だな、俺は台所に一本のねじが落ちているのに気が付いたんだ。その部品が何の部品なのかわからなくて困ってしまったんだが、幸いにも台所にある機械は全部ちゃんと稼働しているし、気にしないことにしたんだな。それからだいぶ時間が経った後で、ウチの電子レンジが壊れちゃってね。業者に修理を依頼したんだ。そうしたら、なんて言われたと思う?なんとそのレンジ、ねじが一本欠けているって言われたんだ」

「やっぱり部品が欠けるとまずいじゃないか。壊れちゃったんだろ?」

「待てよ。この話には続きがあるんだ。ねじがなくなった箇所を調べてみるとな、奇妙なことになっていたんだ。欠けたところを補うように、部品同士がくっついて、ねじが無くても大丈夫なようになっていたらしいぜ?その修理業者が言うには、『最初からそうなるように設計されていたのだろう』ってことでさ。つまり、エラーか何かで部品が欠けることはメーカーも了承済みなんだよ。設計者も馬鹿じゃない。ある程度のトラブルなら許容できるように組み立ててあるってことさ」

「メーカーはわざわざ余計な部品を組み込んでいるってことかい?」

「ああ。だが、もちろん取れないに越したことはないんだぜ?言ってしまえば保険みたいなもんでさ、余計な部品を入れとくことで、何かあってもそいつから取れるようにしてあるのさ。取れてもいい部品がないと、何一つ取れちゃいけない、壊れちゃいけないってことだろ?どんな欠損もダメってわけだ。でも、そんなの現実的じゃないだろ?だから余計な部品を入れてあるのさ」

「じゃあ、君の電子レンジはどうして壊れたの?」

「寿命さ。自然に壊れちまったってわけ。とにかく、お前は心配しすぎなんだよ。部分なんて些細な問題さ。そのXとやらがなくても、宿主の機械はきちんと稼働してるよ。まあ、多少のずれはでるかもしれんがな」

 確かに、同僚の言う通りだった。僕はあれからニュースをよく見るようになったが、大型機械が故障を起こしたなんていう話は聞いたことがない。それに、もし問題になっていれば、僕がXを拾った辺りを誰かが探しに来るはずだろうし、新聞広告に捜索依頼を載せるかもしれない。そういうのが全くないってことは、Xは無くてもいい部品だったのだろう。

 僕の預かり知らぬところで、このXの持ち主は、自分が制御盤を落としたなんてことは露も知らずに、動き続いているに違いない。僕はなんだかXが寂しそうに見えた。彼は余計な部品だったのだ。

 今や、Xは布を被せられて、他の調度品に混じって、静かに部屋の隅に収まっている。もはや僕にとっては家具の一部でしかなく、何の意味もないオブジェクトの一つに過ぎないのだ。

 さて、僕がXのことをすっかり忘れてしまった頃、急を要する事態が発生した。隣のB国がこちらに戦争を仕掛けて来たのだ。噂では核ミサイルを打つかもしれないとのことらしい。僕はソファに上に縮こまってテレビを見ていた。顔を真っ青にしたニュースキャスターが絶叫する。

「B国が核ミサイルの発射しました!みなさん!核シェルターの中に避難してください!」

 僕は全ての終わりを悟った。僕は暴れず、ただじっとして死を待っていた。

 そして、再びニュースが入って来た。

「続報です!核ミサイルは本土目掛けて飛んでいたはずですが、急に進路を変え、太平洋上に落下したとのことです!B国の報道機関によれば、どうやら一部部品の欠落が発覚したらしく、そのために本来の軌道から外れたとのことです!」

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