解呪
「リリア様、これから解呪の準備を行います」
呪いをかけたのは、私の独断だった。
「……解呪? 私を殺しに来たのではなくて?」
本当は殺してやりたかった。
「……ええ、兄はそれを望んでいます」
でも殺すなら兄さんであるべき、そう思った。
「そうだったのですか……」
この王女も、それを知っている。私たちは共犯者だ。ケイという夫には説明していないが、この国の国民である以上は察している部分もあるだろう。
「そうだったのですね」
でもこの女は。今泣いていた。お前が巻き起こしたことだろう。お前たちが引き起こしたことだろう。
「……私の兄さんを傷つけたのに、幸せになるなんて許さない」
「当然です。私は、私たちは自分勝手な幸せを選んだのです。王族として、恥ずべき行為だったと思います」
何様のつもりだ。
「でも、ひと時だけでも。恋ができた。愛が生まれた。だから、少し嬉しく思っているのです」
解呪の準備が滞る。私が、ここで殺しても良いんじゃないだろうか。
「もう、開き直ることしかできないのです。私にも何が正しいのか分からないのです」
だからって、許せる態度じゃないだろ。
「……知っていますか、兄さんには毎日各国の貴族からラブコールが送られてきます」
私は何を言おうとしてるんだ。
「知っています」
当たり前だ。勇者宛の手紙は王城で点検され、改めて勇者のもとへ届けられる。
「中には惚れ薬や恋愛成就の術がかけられている物もあります」
だから、こいつだって知ってるはず。私は何を言いたい。
「知っています」
「兄さんを本気で愛している人が居るってことです。それなのに、兄さんは女性としてあなたのことを……!」
口を抑えるのが遅すぎた。私が、許せない。
「……それは知りませんでした」
手が痛い。リリアの頬が赤い。手が出てしまった。
「あなたも、その一人だったのですね」
「見透かしたように……!」
外に轟音が響く。怒りは消え、頭は冷える。
解呪を進めなければ。
「外では一体何を!?」
兄さんは壊れていた。きっと耐え切れず、ケイに襲い掛かったのだ。しかし断続的に攻撃の音が聞こえる。
「黙ってください。今はここに居るのが最善です」
本来なら一瞬で決着がつくはず。ということはケイが思ったより強いか、兄さんが手加減をしているか。
「まさか……!」
リリアは小屋を飛び出した。
彼女の後を追うと、周囲は焼け野原。兄さんは大した魔法の才能も無いはず。だから、これは単純な剣技によるもの。摩擦によってとんでもない炎上が発生している。それでも誰も怪我を負っていなかった。
「ユウシャ!」
どうやらもう殺すつもりらしい。それなら……。
「リリアさん、今解呪が完了しました。あとは逃げるなり、殺されるなり好きにしてください」
せめて兄さんの願いだけは叶えないと。
「ありがとうございます。クリス様」
リリア様のままなら幸せだったのだろうか。どれだけ頑張っても、一つボタンをかけ間違えるだけで報われないなんてことがあるのだろうか。
炎の中を恐れず立ち向かっていく彼女の後ろ姿を、私は見届けることしかできなかった。




